はじめに
ご覧いただき誠にありがとうございます。
薬局経営コンサルタントの津留です。
さて、ただ今ご覧いただいている本コンテンツは、
「クローズアップ調剤行政」
と題した、シリーズコンテンツの追加配信版です。
調剤に関連する行政動向の中で、特に注目度の高いテーマを毎月ピックアップ解説致しておりますが、
通常とはイレギュラーで月の途中で急遽記事作成しています。
クローズアップ調剤行政の記事シリーズでは、
- 厚生労働省・内閣府・財務省を中心とした行政より発表される会議資料
- 通知、事務連絡等の資料 等
を取り上げています。
記事更新は主に月初めで、前月の発表資料を中心にご紹介いたしますので、毎月継続的にご覧いただければ、調剤に関する行政動向を把握するに役立ちます。
ぜひ継続してご覧いただければ幸いです。
尚、各種記事に関するご質問等、個別のご相談は薬局経営者研究会の会員企業様に限り無料で承っております。
興味がある方はぜひご入会を検討ください。
YouTube動画版
令和6年度診療報酬改定 調剤の個別改定項目に関する議論
診療報酬改定の個別改定項目についての議論は、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)で行われます。
11月8日の中医協総会では、2回目の調剤に関する議論が行われ、
いくつか改定内容がイメージできる具体的な論点が出てきています。
今回は、中医協総会で発表された「調剤(その2)について」の資料を元に、
特に重要なポイントをピックアップ解説いたします。
ぜひ最後までご覧ください。
尚、本解説の注意点ですが、事実情報を中心にご紹介していますが、
筆者個人の見解も盛り込まれています。
見解部分については、正確な情報を保障するものではございません。
また、見解はあくまでも私見であり、
組織を代表した共通見解ではないことをご理解ください。
詳細については、ご自身で原文をご覧いただくことをお勧めいたします。
【原文をご覧になりたい方は以下より】
https://mc.nextit.co.jp/revision-of-fees/248789/
調剤(その2)について、外来(その2)について 他|中央社会保険医療協議会 総会(第562回)
「「調剤(その2)について」 新しい情報は?
「かかりつけ薬剤師・薬局」が目立つ資料構成
まずは新たに発表された資料の要点をご紹介します。
本資料は、全85ページに及び4つの章から構成されています。
1.薬局、薬剤師の状況
2.かかりつけ薬剤師・薬局について
3.重複投薬、ポリファーマシー及び残薬等への対応について
(調剤料の見直しに伴う評価のあり方)
4.医療用麻薬の提供体制について
1章は医療費全体に関する情報が含まれており、ある意味で導入部となっています。
2章から4章では、主にテーマに関する調査データや事例が紹介され、
課題の抽出や論点の提示に役立つ内容が取り上げられています。
特に「2.かかりつけ薬剤師・薬局について」では、
以下の4つの項目に詳細に分かれています。
(1)かかりつけ薬剤師の推進について
(2)薬局・薬剤師の夜間・休日対応について
(3)調剤後のフォローアップについて
(4)保険薬局と保険医療機関等との連携について
資料全体のうち、「かかりつけ薬剤師・薬局」の内容が多く占める資料構成となっています。
最終的に示された論点は?
資料の最後には、「課題」・「論点」が整理され、
厚生労働省として、報酬改定に向けて議論したい点と検討の方向性が示されております。
特に「論点」は、資料で示したい内容が概ね理解できるものとなっており、
最初に「論点」をご覧いただいてからその根拠となる内容を逆引きで確認すると理解が深まるでしょう。
論点は、章構成に応じて3つの分類に分かれており、
「かかりつけ薬剤師・薬局」は6項目、
「重複投薬、ポリファーマシー及び残薬等への対応(調剤料の見直しに伴う評価のあり方)」は2項目、
「医療用麻薬の供給体制」は2項目で提示されています。
では、示された論点の中で影響度が高そうなポイントをピックアップしてご紹介いたします。
かかりつけ薬剤師指導料 併算定不可の加算の扱いを見直しへ?
かかりつけ薬剤師指導料において、併算定できない加算への対応について次の論点が示されています。
「かかりつけ薬剤師指導料を算定する薬剤師が実施する業務に関して、
併算定できない加算に相当する業務を行っていることを評価することについてどのように考えるか。」
この「併算定できない加算」とは、主に服薬情報等提供料1・2・3(30点、20点、50点)、吸入薬指導加算(30点)、調剤後薬剤管理指導加算(30点)で、いわゆる医師への情報提供が求められる加算です。
かかりつけ薬剤師指導料自体は、様々な取組みについて包括的に評価された点数で算定され、既に包括点数の中で評価されているため、これらの加算は併算定できないとされています。
しかし、実際にかかりつけ薬剤師がこれらの業務を多く実施する傾向があるデータが示されています。
厚生労働省は、これらの業務内容について改めて評価を検討する必要があるかどうかを再考する考えで、改めて論点を提示しています。
かかりつけ薬剤師指導料 24時間相談応需体制 他薬局との連携可へ?
かかりつけ薬剤師の夜間・休日対応について、以下の論点が提示されています。
「薬剤師の働き方の観点から、薬局・薬剤師における夜間・休日対応に関して、
地域において継続的に夜間・休日対応が可能となるよう、
周囲の薬局との連携を行いつつ対応することについてどのように考えるか。」
かかりつけ薬剤師指導料では、次の通り24時間の相談応需体制整備が求められています。
「患者から 24 時間相談に応じる体制をとり、開局時間外の連絡先を伝えるとともに、勤務表を作成して患者に渡すこと。」
この要件がネックで、かかりつけ薬剤師指導料の届出ができないという薬局が一定数存在します。
その背景には、薬剤師個人の負担があり、特に常勤薬剤師数が少ない薬局においては、薬局内で輪番制を築くことも難しく、精神的・身体的負担が大きくなることがあります。
薬局の1店舗あたりの常勤換算の薬剤師数が2人以下の薬局が49%存在し、2人以下の薬局では相対的に夜間・休日対応をしていない薬局が多いデータが示されています。
厚生労働省は、働き方改革の観点から、かかりつけ薬剤師の夜間・休日対応体制をとるにあたり、地域の薬局と連携した輪番制などについて検討するべきかどうか、論点として示しています。
調剤後のフォローアップ、心不全等の疾患拡充へ?
調剤後フォローアップについての取組みについて次の論点が提示されています。
「調剤後のフォローアップにより患者の状況等を把握する方法に関して、
患者・医療機関からのニーズも踏まえ、現在評価されている疾患の拡充や、
現在規定されている薬剤の範囲を広げること等、
フォローアップの業務を推進する観点からこれらの評価を行うことについてどのように考えるか。」
調剤後フォローアップについては、2020年改定にて「調剤後薬剤管理指導加算」が新設され、2022年改定においても評価の拡充が図られています。
この加算の対象患者は、インスリン等の糖尿病治療薬を利用する糖尿病患者に限定されています。
今回改めて対象患者・疾患の拡充について論点が提示されてます。
具体的に、拡充に向けて取り上げられているのは「心不全」です。
診療所・病院において、特に薬局薬剤師にフォローアップして欲しい疾患として「心不全」を挙げる割合が高く、ニーズが高い結果が示されています。
また、心不全患者が再入院する要因の一つに「治療薬服用の不徹底」が挙げられ、薬剤師による退院後の継続的な薬学的管理の必要性が示されています。
医療機関と薬局が連携して、心不全患者の症状悪化・再入院回避に繋がる事例が紹介されています。
滋賀県草津市の淡海医療センターと近隣薬局との連携事例で、薬局来局時に継続的に「心不全フォローアップシート」で療養指導を行いながら、医療機関に指導内容を毎回フィードバックをする取組みが紹介されています。
その他にも、薬局薬剤師による心不全患者へのフォローアップの事例が紹介され、フォローアップの効果を示しています。
厚生労働省は、このような背景を踏まえて、「心不全」患者へのフォローアップの取組みを評価するかどうか、論点として示しています。
介護支援専門員への服薬状況の情報提供に評価?
保険薬局と保険医療機関等との連携について言及され、特に介護支援専門員(ケアマネージャー)との情報共有について以下の論点が提示されています。
「医療・介護の関係者間の連携を進める観点から、
薬局が介護支援専門員など介護関係者に対して
薬学的管理に関する情報提供を評価することについてどのように考えるか。」
介護支援専門員への情報提供は、62%の薬局で実施しているとデータが示されています。
また、薬剤師の介入により「利用者の服薬の状況が改善された」といった効果を示すデータも紹介されています。
厚生労働省は、これらのデータを踏まえて、介護支援専門員との薬学的管理に関する情報共有について評価するかどうか、論点として示しています。
自家製剤加算、嚥下困難者用製剤加算 錠剤粉砕時でも算定できないケース解消へ?
重複投薬、ポリファーマシー及び残薬等への対応について、関連する点数の算定状況や、薬局薬剤師の関与による好事例等が示されています。その流れで、自家製剤加算、嚥下困難者用製剤加算について、次の課題が示されています。
「調剤に係る業務のうち、自家製剤加算と嚥下困難者用製剤加算に関しては、
算定要件が類似している一方で、例えば、出荷調整等により散剤が不足する場合に、
代替として同一成分の錠剤を粉砕しても、いずれの加算も算定できない。」
主に、錠剤の粉砕時に算定する「自家製剤加算」と「嚥下困難者用製剤加算」は、算定要件に類似点がありますが、どのような場合に算定できるか、過去の疑義解釈において次のように示されています。
原則として、処方された用量に対応する剤形・規格があり、
令和4年3月31日「疑義解釈資料の送付について(その1)」(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/000235052.pdf)より抜粋
患者の服薬困難解消を目的として錠剤を砕く等剤形を加工する場合は嚥下困難者用製剤加算を算定でき、
処方された用量に対応する剤形・規格がなく、医師の指示に基づき自家製剤を行う場合は自家製剤加算を算定できる。
類似しているものの、多くは錠剤を粉砕する場合、いずれかの加算を算定できるようにされています。
しかし、昨今錠剤を粉砕してもどちらも算定できない状況が出てきています。
例えば出荷調整等で散剤が不足する場合に、同一成分の錠剤を粉砕するケースはいずれも算定できない扱いとなっています。
厚生労働省としては、論点までは提示されていませんが、この点を課題認識されています。
医療用麻薬 不動在庫問題・医療材料「逆ざや」問題解消へ?
医療用麻薬の供給体制については次の論点が示されています。
「薬局において、在宅医療の場面も含む地域の多様なニーズに対応するために、
通常の医薬品と異なり管理や手続等が負担となる医療用麻薬を提供できる体制の確保を評価することについて
どのように考えるか。」
麻薬の備蓄体制について、様々な視点で課題となりうるデータを示しています。
例えば、
・不要な麻薬の取り扱い説明・回収が必要
・患者状態に応じて複数の種類・剤形・規格の医療用麻薬の取りそろえが必要
・特定の患者にしか使用されない薬剤準備や容体変化による不動在庫化
・麻薬持続注射療法、中心静脈栄養法で材料を使用する際に逆ざやが発生するケースがある
などの状況を示すデータが示されています。
無菌製剤 原液調製でも無菌製剤処理算定可へ?
無菌製剤については、次の論点が示されています。
「医療用麻薬の無菌調製に関して、無菌環境の下での調製にもかかわらず、
希釈しないで行う場合は調製業務が評価されていないことについてどのように考えるか。」
医療用麻薬の調剤において、「無菌製剤処理加算」の算定回数が増加傾向にあります。
医療用麻薬の経口投与が困難な場合に、持続皮下投与が選択されることがあります。その際、中には高濃度での投与が必要となり、希釈できず原液で投与されるケースがあるようです。
その場合は、無菌製剤処理加算が算定できない扱いとなっています。この原液調製は、全ての麻薬無菌調製の内、4割程度のデータが示されています。
厚生労働省は、この状況を踏まえて、新たに評価する方向で論点提示されています。
終わりに
中医協総会の調剤に関する議論の中で、論点提示された内容を中心にご紹介しました。
メディアの情報を見る限りでは、論点提示された内容について大きな反対の声は見られず、
概ね前に進むのではないかと予想しています。
一方で、今回取り上げられた論点は、どちらかというとポジティブな内容が中心で、
病院敷地内薬局の問題や、大規模チェーンを中心とした効率的な運営に対する適正化に関する論点は、
今後も取り上げられる可能性があると考えています。
また新たな情報が入り次第、情報配信いたします。
12月配信版では、令和6年度予算編成に向けた財務省秋建議に関する内容や、
もしあれば、中医協での調剤に関する追加検討内容をおとどけする予定です。
次号もお楽しみにお待ちください。
(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)
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