はじめに
ご覧いただき誠にありがとうございます。
薬局経営コンサルタントの津留です。
さて、ただ今ご覧いただいている本コンテンツは、
「クローズアップ調剤行政」
と題した、シリーズコンテンツです。
調剤に関連する行政動向の中で、特に注目度の高いテーマを毎月ピックアップ解説致しております。
具体的には、
- 厚生労働省・内閣府・財務省を中心とした行政より発表される会議資料
- 通知、事務連絡等の資料 等
を取り上げています。
記事更新は主に月初めで、前月の発表資料を中心にご紹介いたしますので、毎月継続的にご覧いただければ、調剤に関する行政動向を把握するに役立ちます。
ぜひ継続してご覧いただければ幸いです。
尚、各種記事に関するご質問等、個別のご相談は薬局経営者研究会の会員企業様に限り無料で承っております。
興味がある方はぜひご入会を検討ください。
関連YouTube動画
2023年7月実施の会議・通知情報
クローズアップ調剤行政【2023年8月配信版】では、2023年7月の気になる行政動向を紹介します。
7月に実施された主な会議・発出された通知等の情報は次の通りです。
厚生労働省
- 2023年07月05日 主な施設基準の届出状況等、入院について(その1) 他|中央社会保険医療協議会 総会(第548回)
- 2023年07月12日 在宅について(その1)|中央社会保険医療協議会 総会(第549回)
- 2023年07月14日 デジタル技術を活用した店舗販売業の在り方について|第6回医薬品の販売制度に関する検討会
- 2023年07月26日 感染症、調剤について(その1)|中央社会保険医療協議会 総会(第550回)
内閣府
財務省
- 特に重要会議・通知情報は無し
2023年7月の気になる行政動向
6月には政府方針が数多く発表されましたが、
7月には実施される会議の数は少なかったものの、
調剤報酬改定に大きく影響する議論が行われました。
この議論は、7月12日に開催された
中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の総会で取り上げられたものです。
今回は、議論の基礎資料として公開されている
「調剤について(その1)」
をピックアップして解説いたします。
ただし、解説においては、事実情報を中心にご紹介していますが、
筆者個人の見解も盛り込まれています。
見解部分については、正確な情報を保障するものではございません。
また、見解はあくまでも私見であり、
組織を代表した共通見解ではないことをご理解ください。
詳細については、ご自身で原文をご覧いただくことをお勧めいたします。
以下の関連情報リンクよりご覧いただけますのでご活用ください。
<関連情報リンク>
「調剤について(その1)」はどんな内容が盛り込まれている?
資料から厚生労働省の考えが透けて見える?!
「調剤について(その1)」と題したこの資料は、
会議での議論の前提となる基礎資料として使用されます。
会議は、厚生労働省より説明の後、
診療側・支払側の双方の意見を挙げていく流れとなります。
資料の内容としては、厚生労働省が問題となりうるテーマ(点数項目等)を複数ピックアップし、
これまでの制度改定経緯、点数算定状況やアンケート等の多数の情報を整理しています。
また、それらの情報を背景に、課題となるポイントと改定に向けた論点をあらかじめ設定しており、
会議でのおおよその議論を方向付ける内容
となっています。
今回発表された「調剤について(その1)」は、
全部で123ページに及び非常にボリュームのある資料です。
以下に目次の構成を示します。
<「調剤について(その1)」目次>
1. 薬局、薬剤師を取り巻く状況
2. 調剤医療費
3. 調剤に係る診療報酬上の評価
① 調剤料の見直し
② 服薬指導に関する評価
③ かかりつけ薬剤師に関する評価
④ 重複投薬・多剤投与、残薬解消等に関する評価
⑤ 医療機関等への情報提供、連携等に関する評価
⑥ 薬局の体制に関する評価(調剤についての課題と論点)
資料をご覧いただくと、このような議論を追いかけている方は、
既視感のある情報が多いかもしれません。
しかし、
これらの情報がなぜピックアップされているか?
という視点が非常に重要であると考えています。
事前に関係者からの要望があるのかもしれないので、
すべての情報とは言いませんが、多くを取捨選択しているのが「厚生労働省」でしょう。
見方を変えると、掲載されている情報から
「厚生労働省が評価・問題視している視点」
が透けて見えてきます。
非常にボリュームの多い資料のため、すべて取り上げられませんが、
特に報道ベースで取り上げられている内容や、筆者自身が気になったデータを中心にピックアップいたします。
まずは最後の「調剤についての課題と論点」で全体像を把握するのがオススメ
資料の読み込みにあたって、オススメの読み方があります。
最後に記載されている「課題と論点」の部分から読み込むという方法です。
ポイントが箇条書きで整理されているため、最初に読み込むことで全体像を把握するのに役立ちます。
調剤に関する第1回のキックオフの議論ということもあり、
後半の「論点」については具体性が乏しい内容ですが、
前半の「課題」部分については、具体的な内容が記載されています。
調剤管理料 調剤日数に応じて算定回数・総額の増加を指摘
まずは、「調剤医療費」について言及されているポイントをご紹介いたします。
次の通り記載されています。
(調剤医療費)
・ 調剤医療費のうち、技術料は約2.0兆円であり、令和4年度に調剤報酬の評価体系の見直しを行い、調剤料の一部が薬学管理料に再編されたため、これまでの直接の比較はできないが、見直し後は薬学管理料の割合が約5割となっている。
・ 見直しにより薬学管理料において新設された「調剤管理料」について、算定回数や総額は、調剤日数の区分が大きくなるほど多くなっており、29日分以上の区分が最も多い。
・ 調剤管理加算は、75歳以上での算定回数が最も多く、全体としては初めて処方箋を持参した場合と2回目以降に処方箋を持参した場合の算定割合は同等であった。
特に気になるポイントは、赤字で記載した点で処方日数に応じて高くなる「調剤管理料」のデータが示されている点です。
「調剤管理料」は前回改定で新たに設定された点数で、
処方に関する薬学的分析や疑義照会等の情報収集、調剤録や薬歴への記録管理等を評価する点数区分です。
これらの取組みは処方日数が増えると、少なからず手間が増えることもあり、
日数に応じて高くなる点数体系としています。
点数体系から次の記載のデータ通りになるのは当たり前ではありますが、
あえてこのデータを紹介して課題に取り上げていることに何かしらの意図があるのでは?
と深読みしたくなる内容です。
フォローアップは評価の方向性、薬剤師にも働き方改革がようやく進む?!
続いて、「服薬指導・かかりつけ薬剤師」についての内容です。
次の通り記載されています。
(服薬指導・かかりつけ薬剤師)
・ 服薬指導管理料の算定状況では7割以上が3月以内に再度来局した患者であった。継続的服薬指導は、新しく薬剤を追加した際に多く実施されており、電話で実施する割合が多かった。指導を受けた患者は薬物治療の不安が解消されたり、意識が高まった人が多い。
・ 継続的服薬指導を含め、個別の疾患領域においては地域において多職種との連携により、医療機関と薬局等との連携を充実させて患者を支えていく取組もある。また、患者への情報活用ツールとして医薬品リスク管理計画(RMP)に基づく詳細な説明資材を用いる場合もある。
・ かかりつけ薬剤師指導料等の届出割合は増加傾向であり、患者年齢別にみると10歳未満、75歳以上で算定回数が多くなっている。かかりつけ薬剤師のいる患者は34%であり、薬の継続的な把握や丁寧な説明、薬の飲み合わせなどのチェック等がよかったとの意見であった。
・ 服薬指導の概要は調剤録に記載することになっているが、調剤報酬上の薬剤服用歴等への記載を求める事項が多岐にわたっており、薬剤服用歴等への記載だけで残業する薬剤師は全体の約3割弱存在する。
気になるポイントは、赤字で記載した「継続的服薬指導」と「薬歴残業」についての言及です。
服薬フォローアップの取組みにポジティブな情報掲載
継続的服薬指導(調剤後フォローアップ)については、
ポジティブな調査研究データやアンケート結果が多数紹介されています。
患者視点での満足度が高い評価の声があり、
また重大な副作用の回避等の効果が見られたというの内容が含まれており、
厚生労働省は継続的服薬指導の取組みをさらに強化をしていきたいとの意向が推察されます。
薬歴残業の実態を示すデータを提示
これまで医師の働き方改革については、様々な場面で議論が行われましたが、
薬剤師にスポットライトを当てられることはありませんでした。
今回、「薬歴」の記録における残業実態について取り上げられています。
具体的には、診療報酬上の多岐に及ぶ薬歴に求められる事項や、
薬歴作成に係る平均残業時間等のデータが紹介されています。
診療報酬上の薬歴関連の要件見直しを視野に入れた内容であると推察できます。
一包化に関する評価に何らかの見直しも?!
続いて、「重複投薬・多剤投与、残薬解消等に関する評価」の内容です。
次の通り記載されています。
(重複投薬・多剤投与、残薬解消等に関する評価)
・ 薬剤師により処方箋の疑義照会を行っているのは全体の2.6%であり、そのうち薬学的な疑義照会は8割を超えている。
・ 残薬の解消に係る取組に係る評価の算定回数は増加傾向である。一包化に伴う服薬支援は全体の1/4で実施されており、75歳以上では半数以上となっている。
気になるポイントは、赤字の「一包化に伴う服薬支援」についての言及です。
前回改定にて、一包化に関する評価は算定要件自体は変更が無いものの、
「調剤料 一包化加算」から「外来服薬支援料2」に移行されました。
中身自体は変わっていないのにも関わらず、
今回改めて一包化に関する算定状況のデータが示されています。
このデータを示して何を言及したいのか、いまいちハッキリしませんが、
外来服薬支援料2の要件変更を見越しての情報提示なのかと推察しています。
服薬情報提供は処方提案重視、一方通行でなく双方向へ?!
続いて、「医療機関と薬局の連携等」の内容です。
次の通り記載されています。
(医療機関と薬局の連携等)
・ 薬局が医療機関へ情報提供する割合は増加しており、医療機関に送付する服薬情報等提供料2の算定が令和3年度以降に特に増加している。情報共有を円滑に行うため、地域で統一様式を定めて取り組んでいる事例もある。一方で、医療機関が求める情報と薬局が提供する情報に差がある。
・ 入院患者の退院時の薬局の関わりについては、退院時共同指導料の算定は少ないものの増加傾向にあり、令和4年度の調剤報酬改定により参加要件が見直されたことにより関与し始めたケースが認められ、算定薬局の4割でビデオ通話を用いて参加している。
気になるポイントは、赤字で記載した「服薬情報等提供料」についての言及です。
薬局から医療機関への情報提供は、文章による服薬情報提供書が用いられています。
厚生労働省より、基本となる服薬情報提供書の様式例は示されていますが、
今回、広島で統一様式で運用されている様式事例が紹介されています。
広島での様式の特徴は、チェックボックスを活用した入力の簡素化の工夫等による書きやすさはさることながら、
一番の特徴は「双方向性」を重視していると思います。
一方的に薬局から情報提供をして終わりではなく、医療機関から対応について返信いただく項目を設定しており、
アフターフォローを想定した様式になっています。
さらに、医療機関が希望する処方提案等の情報と実際提供される情報との差があるデータが示されていますが、
一方通行ではなく「双方向性」のある情報提供の流れを作ることで、
本当に意味のある情報提供に変えていきたいという思惑があるのではないかと推察しています。
「敷地内薬局」連携なしと回答する医療機関が過半数に問題視する声?!
最後に、「薬局の体制に関する評価」の内容です。
次の通り記載されています。
(薬局の体制に関する評価)
・ これまでの大型門前薬局の見直しのほか、令和4年度改定では大規模グループ薬局の店舗数に応じた基本料の見直しを行った結果、新設された調剤基本料3ハの薬局は15%を超えており、調剤基本料1の薬局は約85%から約70%まで低下した。
・ 地域支援体制加算は38.2%の薬局で算定されており、新設された地域支援体制加算2(調剤基本料1の薬局で高い要件を満たす必要がある加算)は調剤基本料1を算定する薬局の21.5%が算定している。地域支援体制加算の算定薬局は、算定していない薬局と比較して医療用医薬品の備蓄品目が多い。
・ 連携強化加算の届出割合は24.2%であり、加算を算定している薬局の方が、より多くの施設で新型コロナウイルス感染症に係る対応が実施されていた。
・ 敷地内薬局は、処方箋受付回数が多いものの、地域支援体制加算の届出割合は低かった。医療機関側からは連携していると認識されていない薬局も半数以上存在している。
・ 後発医薬品の調剤体制加算は、令和4年度改定で算定要件が引き上げられたが、届出数はほぼ変わらず全体の約7割であった。薬局での後発医薬品の使用割合は82.1%であった。
気になるポイントは、赤字で記載した「敷地内薬局」についての言及です。
本中医協総会に関する報道でも、この「敷地内薬局」に関する内容が多数取り上げられ、
委員から問題視する意見が挙げられていたようです。
特に問題視されるポイントとして、
敷地内薬局の医療機関側から連携していると認識されていないことにあります。
示された調査の母数が少ないながらも、敷地内薬局のある医療機関の回答18サンプル中、
11サンプルで「敷地内薬局との連携なし」の回答結果でした。
本来は、距離が近いため他の薬局と比べて高いレベルでの連携が期待されるところですが、
実際は連携されていないケースが多いデータが示されています。
また、連携されている場合も「処方内容の問合せに関する業務の簡素化」が最も多い連携内容として示されています。
筆者の印象としては、質より量を重視した敷地内薬局の現状が強く感じ取られ、
問題視する意見が挙げられるのは当然だと感じました。
今後より一層「敷地内薬局」への締め付けが強くなるのではと推察しています。
終わりに
今月の記事では、中医協で発表された資料「調剤について(その1)」の中で、
特に押さえていただきたいポイントをピックアップしました。
2024年度診療報酬改定に向けた調剤に関する議論は、
今回で第一回目となり、あくまでもキックオフの位置づけとなります。
委員の意見を踏まえて、今後はより具体的な内容に踏み込んで議論が進むと予想されますが、
大枠でどのような議論が考えられるか、少なからず議論の方向性が見えて参りました。
ご紹介した内容は、資料のごく一部ですので、気になる方はぜひ原文をご覧ください。
また、新しい情報が出てきましたら、続報で情報提供いたします。
今月の「クローズアップ調剤行政」は以上です。
次号もお楽しみにお待ちください。
(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)
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