シン・処方元回帰シリーズ
~第4回 医療業界における診療所の動向について その④~
診療所の建屋

診療所の建屋


今回の当シン・処方元回帰シリーズのテーマは「診療所の建屋」についてです。前回の第3回目は「診療所の開業形態と題しまして、勤務医師が「診療所を開業する際の地理(場所)の選択とその種類」などを見てまいりましたが、今回は建屋選択の種類等を見ていければと考えております。

Q1.診療所開業時の建屋の種類は?

診療所の開業形態として「(現在の)勤務病院周辺」「故郷」そして、「落下傘による開業」のいずれかを選択した医師が共に検討するのが、「診療所の建屋」です。建屋の種類は以下の4つほどに分かれますが、時代の変化と共に、その選択は変化しています。

 
1.1戸建て診療所都市部と比較し、「地価の低い地方に多い」開業パターンです。
敷地(土地部分)については、”購入”と””借地”の2つがあります。
また、近年ではデベロッパーが建屋を建築し、開業医に賃貸する場合もあります。
2.貸しビル等都市部に多い開業パターンです。特に前回号の落下傘型(マーケティング活用)の際には、周辺推定患者数や、来院患者の動線の確保を踏まえて、開業に至る場合があります。
一戸建て診療所や他のパターンに比べ、開業の初期投資が抑えられるメリットがあります。
3.自宅兼用過去に多く存在していたパターンで、自宅に診療所を隣接させる(もしくは、自宅の敷地内に診療所を建築する)等があります。しかし、開業医にすれば自宅・診療所と初期投資が大きく膨らむケースがあり、投資回収が長期化するため、近年はリスクを抑える意味で、1もしくは2を選択するケースが増えています。
4.クリニックモール近年の土地活用の一環として、デベロッパーが複数診療科が入るクリニックモールを建築し、その一角を賃貸するパターンです。貸しビル等と同様に初期投資を抑えることが出来ますが、他の医師との関係性でトラブルになるケースも存在します。※ご入金が前営業日までに確認できない場合はご参加いただけません。お早目のご入金をお願い申し上げます。

まず、1.1戸建て診療所ですが、地価が比較的高額な都市部には少ないものの、地方部においては、駐車場付き建屋を建築する形となります。特に、日常的に自動車移動が必要となる地方部にはポピュラーなパターンです。一方、新築する場合には、初期投資が高額になりがちであることから、敷地については借地を選択するケースも少なくはありません。とはいえ、貸しビル等の賃貸などに比べると、1階部分に診療所があることから、比較的患者の認知は進みやすいことが特徴です

続いて、2.貸しビル等では、都市部に多いパターンで、初期投資を押さえつつ開業が可能となります。ただし、貸しビル内のため、 1戸建て診療所と異なり、患者が診療所を認知するスピードは緩やかと言わざるを得ません。そのため、貸しビルとはいえ、患者動線を緻密にマーケティングし、認知活動(看板やホームぺージ)に注力することで、早期の収益化を図ることが重要なパターンです。また、この患者動線の検討に際しては、”住民””買い物客””ビジネスマン”など患者プロファイルを明確にすることがポイントとなってきます。

そして、3.自宅兼用は過去に、特に地方部に多く存在していたパターンです。地域に根差すといった意味では、長期的に最も地域住民の信頼を得ることが可能なパターンと言えます。一方、診療所と自宅を共に建築することとなり、初期投資が膨らむため、その投資回収においては、こちらもマーケティングを活用し地域住民の予想増減等を踏まえ、慎重に検討する必要があります。

最後に、4.クリニックモールですが、近年の土地活用の1つとして、高齢者向け住宅の建築と共に多いパターンです。生活圏域を中心に複数の診療科の複合施設として建築が進んでいます。開業医はクリニックモールの誘致などに応じ、2.貸しビル等と同様に初期投資を押さえながら、賃貸で開業を行うことが可能となります。一方、クリニックモールにもデメリットは存在します。まずはクリニックモール自体の”集患力”です。クリニックモールの集患力は患者からすると「他の診療科も同時に受診できる」や「買い物ついでに受診できる」と言った理由が多くありますが、”クリニックモールが想定していたほど、開業医が集まらない場合もあり、診療科が限定される場合”や、もう一つの目的である”買い物客を想定していたものの、できる買い物に魅力が少ない、制限がある場合”などは集客力の低下が懸念されます。また、複数の診療科が同居することから、近隣の医師との関係性によっては、”隣にあるのに紹介をしてくれない””診療方針があわない”等とトラブルとなることや、”同時に複数診療科を受診できる”というメリット自体が小さくなることがあります。

上記のいずれの種類においても、重要となるのはその地域における将来的な人口増減の予測となります。そのため、現在の診療圏マーケティングだけではなく、「将来人口の予測精度」が重要なポイントと言えるでしょう。