シン・処方元回帰シリーズ
~第6回 競合他院に勝ち抜く経営戦略の重要性~

第6回 競合他院に勝ち抜く経営戦略の重要性


さて、前回では、「開業後において、その地域でどのような医療提供を目指し、更に何を特徴にすればそれらが患者へ受け入れられ続けられるか?」といった基本構想と戦略の内、“基本構想”にスポットを当て見てまいりました。ゆきたいと思います。今月号では、後者の診療所開業における“(経営)戦略・課題”について言及できればと思います。

Q1.経営方針に沿った“(経営)戦略・課題”とは

前回にて、経営方針は、診療所経営の目的である経営理念に近づくための“道筋”とお伝えをさせて頂きましたが、“(経営)戦略・課題”はもう少し短期視点での、その道中においての「必ず進めるべきこと」と捉えて頂ければと思います。例えば、家族で旅行をする場合を考えますと、自宅から最終の目的までに向けての「移動手段(新幹線・飛行機・フェリー等)の決定」「宿泊先の予約」「訪問先(アミューズメント施設や景観地)の決定」などかと思います。これは、いわゆるこの旅行に“欠かせない、判断すべき重要な事由”とお考え頂ければと思います

一方、診療所経営に話を戻せば、この家族旅行のように単純な話ではありません。“地域における競合医院の存在“といった、予め踏まえるべき”制約や困難”が存在します。この場合にはこれらに対し“何によって解消するのか?”

“前もって”考えるべきと言えます。制約や困難が目の前に明らかになったタイミングでは、選択肢が限られることが往々にしてありますし、どの選択肢も余計に時間を要する場合があります。一般的なビジネス上では、戦略について、「戦を略す」と言い換えられる場合がありますが、私はこれについて「戦いを無くす」訳ではなく、「考えうる最も効果的・効率的な手段で戦いに勝つ」ことと捉えています。例えば、競合医院が親子孫の3世代に渡り、地域医療に貢献をされているのであれば、その地域の(特に中年層~高齢者層における)知名度や信頼度は絶大なものとなります。その近隣に新たに開院を希望される場合、この競合医院に真っ向勝負をかけ、患者様を当院に取り組むことは多大な労力と時間を要します。だからといって、手をこまねいたまま細々と新たな診療所経営を行えば、将来に訪れるのは“患者数の停滞”や“運転資金の枯渇”と言えるでしょう。では、どうすれば良いでしょうか。

Q2.「戦いに勝つための最も効果的・効率的な手段」を考えるには?

上記の問いに対し、現在の私が持つ答えは「徹底した地域文化・競合・患者の年齢・生活様式/行動分析」と、その分析時における「今後のどの周辺住民に対し、どのような利便性を提案していくのか?」です。例えば、競合分析において、「競合他院が昔からの知名度と信頼を武器にしており、積極的な公告を行っていない」という弱みが判明した場合、当院が公告のターゲットにするには「(他の地域から引っ越してきた、または新興住宅街の)若年層~中年層の夫婦・家族」などが考えられます。そして、そのターゲットの大半において「日中は地域を離れ、都市部へ勤めに行っている」とした場合、「帰宅時間帯である夕方から夜間にかけて診療時間を延長する」といった戦略が考えられますし、また、「とはいえ、その受診に充分な時間があるわけではない(例えば、受診後すぐに帰宅し家事を行う必要がある等)」場合には、「スマートフォン等で事前に問診票を送ることができ、予約&待ち時間を短縮できるシステムを導入する」などの戦略も考えられます。また、それでもなお、「夕方以降にさえ受診する時間が取れない」といった患者が想定される場合には、オンライン診療システムなども検討の余地があるでしょう。

 もちろん、上記のような若年層~中年層の夫婦・家族が少ない地域においては、既にその地域で受診や通院をしている高齢者の取り込みが必要になります。この際においても、「この地域の行事等で、高齢者が一同に集まることはあるのか?」「またその場所はどこか?」「その場所に伺い、初めて会う高齢者の皆さんにも安心感を覚えてもらうために、どのような準備物が必要か?」「気軽に当院の紹介をするような時間はもらえそうか?」など営業活動の手段に頭を巡らせる必要があります。

 いずれにせよ、「どのような戦略を取るべきか?」は「どのような患者層にどのような利便性を提案するのか?」という、“徹底した分析と立案”が重要になることは間違いありません。

(経営コンサルタント 中野 康三)