シン・処方元回帰シリーズ
~第3回 医療業界における診療所の動向について その③~
診療所の開業形態

診療所の開業形態


今回の当シン・処方元回帰シリーズのテーマは「診療所の開業形態」です。前回の第2回目は勤務医数から見る診療所開院への意向と動機」と題しまして、勤務医師が「いつ頃から診療所開院を考え始めるのか?」や診療所開院の動機などを見てまいりましたが、今回は物理的・地理的視点から診療所開院を見ていければと考えております。

Q1.診療所開院の場所はどう決める?

病院勤務で開業を希望する希望医師が、診療所開院の場所を検討するにあたっては、「(現在の)勤務病院周辺」「故郷」そして、「落下傘による開業」等が検討されます。それぞれの特徴は以下の通りです。

1.勤務病院周辺 現在勤務している病院の診療圏やご自身の勤務医の実績を活かし、近隣に開院する
2.故郷 医師の故郷で開業する(両親が医師などの場合の承継時も含む)
3.落下傘型 都市部や地方部などにおいて、医療提供(競合医院)が少なく、一定の需要が見込まれるなど、マーケティングによる判断を活かした開院

まず、1の勤務病院周辺での開院ですが、既に過疎化が進んでいる地域を除き、病院の診療圏には一定の患者層が存在していることや、勤務病院での実績(患者からの知名度・認知度)を活用できることから、開院初期段階での患者来院想定数が見込みやすい特徴があります。反面、勤務病院からは外来患者をもっていかれるといった不満が発生する等のトラブルが絶えません。ただ、近年は地域医療体制の再編により入院・外来機能分化が推進されていることから、病院の戦略として「サテライト型の開業」を勧める場合があります。

続く2の故郷での開院は、開業希望医師により様々な”想い”や”状況”により、開院後の患者来院総定数は異なります。例えば、医師の両親が故郷において既に開院をしており高齢による承継が必要になる場合などにおいては、医院建屋を引き継ぐ場合などがあります。この場合には、ご想像の通り、前理事長が養ってこられた地域患者からの「信頼度」により、そのままの患者数を引き付ける場合は往々にしてあります。一方で、ご自身の代から医業を行われている医師が故郷に帰り開院を進められる際には、既に現存する医療機関との競合を念頭に置かなければなりません。つまり、2の場合には「開院前からその故郷の地域におけるご自身や親族などの地域貢献度が問われる格好となり、患者によるその認知の量と質によってその成否が決まる」ことが多い状況です。

最後の3の落下傘型では、病院の診療圏や地縁、コネクション等には頼らず、診療圏調査を行い開院を進めます。複数の希望地域の中で、医療提供が充分である場合(医療提供>医療需要:競合が多い)には、開業後の安定した成長と成功への労力が多分に掛かることから、医療需要(患者が求める医療数)が一定以上でかつ、医療提供が充分ではない地域に絞って開院を進める流れとなり、この肝は”診療圏調査の精度”と”初期認知活動”といえるでしょう。一概にどのような地域が良いのか?ということは診療圏調査の結果によりますが、とはいえ、都市部と地方部によってはややその様相は異なります。都市部では、スモールシティ化等の影響から、地方より人口が集まりやすく医療需要は過去に比べると維持(もしくは増加)していることがありますが、既に競合が多く存在していることから初期認知活動を通し、現存の競合以上の認知度を獲得するまでには時間を要します。一方、地方部においては、同じくスモールシティ化等から都市部への人口流出が著しい場合があり、医療需要自体が見込めない場合があります。このような中では、競合が少なく、今後医療需要が増加するであろう「新興住宅地」やその開発予定地での開業が視野に入ってきます。

さて、3の落下傘型については、診療圏調査が重要である旨をお伝えしましたが、それは1と2においても同様です。第一義的には、開院初期段階から患者来院が見込め、安定した医院経営ができるのか?はもちろん重要ですが、中長期的な医院経営を考えた場合、「短期的には医院経営に問題はない地域だが、既に人口減少・流出が著しい」という地域もあります。こういった場合に向けて、短期的・長期的な人口動態をベースにしつつ、診療圏調査をどのように活かしていくのか、ということが求められる状況となっています。

Tips~新規開院の地域選定には、子供の育てやすさ等が関係 !?~

上記では診療所開院の「場所決め」についてお伝えしましたが、この際忘れてはいけないのが、その医師の「ご家族の意向」です。例えば、その医師にご子息・ご令嬢がいる場合、医師が開院を希望する地域と、ご家族が希望する地域が異なってくる場合があります。例えば、医師は地域貢献を考え、故郷での承継や開院を検討したいが、ご家族は現在の土地を離れたくない、などがあります。この理由として、「子供の育てやすさ」教育環境等があります。実際に良くある話として、医師の奥様から「子供への教育が充実した地域で育てたいため、市内に居住を残したい」等があります。地方によっては、ご家族が有名進学校や学習塾の不足や水準の低さなどから、養育についての不安を感じてしまい、医師が単身赴任や毎日遠距離から通われるケースなどもあります。今後は、その地域の医療需要(患者数)と合わせ、進学校や学習塾の存在も開院地域選択の一因になるのかもしれません。