第5回 診療所開業における基本構想の策定
さて、前回までの当シリーズでは、近年の診療所開業における「年齢や動機」、「開業形態(場所)、診療所の建屋」等のパターンをいくつか見てまいりました。しかしながら、これらのような競合医院にも劣らない、好ましい集患環境が揃ったからといって、持続的な発展が保障されるわけではありません。他方で必要とされるのは「開業後において、その地域でどのような医療提供を目指し、更に何を特徴にすればそれらが患者へ受け入れられ続けられるか?」といった基本構想と戦略です。本日はこの内、”基本構想”にスポットを当て見てゆきたいと思います。
Q1.診療所開業に係る基本構想の策定とは
ここでいう基本構想には、医院の経営理念や経営方針、医院運営の方針から始まり、具体的な診療にかかる方針、標ぼう科目などが含まれます。そして、この基本構想針の策定は、医院のコンセプト(建屋や投資設備の特徴)や提供する医療サービスの方向性を左右する重要な要素であり、逆に基本構想が無い場合、患者による医院選択の障害となりかねません。まずは、開業希望医の想いや考え等を”明文化”することで、診療所設計時における”ぶれない軸”を作っていきます。
第一の経営理念は“地域での診療所開業を志すに至った想い(目的や動機)”です。これは、開業を突き動かす原動力と言え、決して”正しい答え”というものはなく千差万別に存在します。「そもそも、”診療所開業”を通して何がしたいのか?」を自問自答頂きながら、最もその想いを的確に表現する文言を選択します。また、この経営理念は開業医自身の想いはもちろん、「(これから開業する診療所は)地域の人々にとってどのような存在でありたいか?」また「働く従業員にとって、どのような存在でありたいか?」を表したものとなります。近江商人の経営哲学にも”三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)”がありますが、開業医の想いから始まりさえするものの、経営理念は周囲へどのような貢献を及ぼすかまでを明文化できることが好ましいと言えます。
続く、経営方針は、診療所経営の目的である経営理念に近づくための“道筋”と言えます。経営理念が定まった後においては、現状から「どのような考え方・思想で経営理念に近づいていくのか?」を表したもので、一種の思想の絞り込みや戒めとも言えます。つまり、これは「この道筋を外れずに理念に近づいていく」との宣言であり、今後の医院運営や提供する医療サービスの範囲にも直結するものです。基本構想の中でも、これら経営理念と経営方針は、診療所経営におけるブレない羅針盤とも言え、また安易に変更となることを避けるために、その検討にはじっくりと時間を要する場合があります。
また、診療所開設を検討し始めたという医師の皆様には、診療所の開業形態・場所の検討と同時並行にて、検討をお勧めします。開業形態や場所が変わることにより、提供出来る医療、必要とされる医療も少しずつ異なります。次回も引き続き基本構想に触れていきたいと思います。