財務省春建議「歴史的転機における財政」を読み解く
 ~クローズアップ調剤行政【2023年6月配信版】~

はじめに

ご覧いただき誠にありがとうございます。

薬局経営コンサルタントの津留です。

さて、ただ今ご覧いただいている本コンテンツは、

「クローズアップ調剤行政」

と題した、シリーズコンテンツです。

調剤に関連する行政動向の中で、特に注目度の高いテーマを毎月ピックアップ解説致しております。

具体的には、

  • 厚生労働省・内閣府・財務省を中心とした行政より発表される会議資料
  • 通知、事務連絡等の資料 等

を取り上げています。

記事更新は主に月初めで、前月の発表資料を中心にご紹介いたしますので、毎月継続的にご覧いただければ、調剤に関する行政動向を把握するに役立ちます。

ぜひ継続してご覧いただければ幸いです。

尚、各種記事に関するご質問等、個別のご相談は薬局経営者研究会の会員企業様に限り無料で承っております。

興味がある方はぜひご入会を検討ください。


2023年4・5月実施の会議・通知情報

クローズアップ調剤行政【2023年6月配信版】では、2023年5月末までの気になる行政動向を紹介します。

2023年4・5月に実施された主な会議・発出された通知等の情報は次の通りです。

厚生労働省

内閣府

財務省


2023年4・5月で気になる行政動向

毎年6月には、国全体の政策の方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」が発表されています。

今年においても同様に6月中には骨太方針が発表される見込みです。

中身の議論は経済財政諮問会議で進められることになりますが、概ね毎年春頃には財務省・財政制度等審議会より財政健全化の方策等の意見を取りまとめた建議(意見書)が骨太方針策定に向けて出されています。

財政制度等審議会はあくまでも財務省の諮問機関であるものの、建議については財務省の意向が強く反映されたものとして捉えて差し支えないでしょう。

本年度においても、

歴史的転機における財政

と題して、骨太方針2023に向けた財政制度等審議会の建議が取りまとめられ発表されています。

本記事では、建議の中から特に薬局に関連する部分をピックアップ解説いたします。

尚、原文をご覧になりたい方は、以下に関連リンクを取りまとめておりますのでご参考ください。

■ 歴史的転機における財政(令和5年度春の建議)|財政制度等審議会

https://mc.nextit.co.jp/revision-of-fees/247385/

2023年度 春建議「歴史的転機における財政」

2023年度春建議は構成が大幅に変化!医療関連は「こども・高齢化等」へ

例年の春建議では、「社会保障等」の括りで医療や介護について言及されていました。

今年の春建議では大きく章構成が見直されています。

建議の大きな章構成は次の通りです。

  1. 基本認識
  2. 財政総論
  3. 成長
  4. こども・高齢化等
  5. 人口・地域
  6. 将来世代の視点

薬局に関連する医療・介護の内容は「4.こども・高齢化等」にて言及されています。

この章構成見直しの背景は、明確に示されていませんが、岸田首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」を踏まえての取りまとめではないかと推察しています。

財務省が考える少子高齢化の中で求められる政策

少子化対策の議論が本格化する中、どのような社会保障政策を打ち出すか、またその財源をどのように確保するのかが大きな問題となります。

医療・介護においては、高齢化が進む影響で今後も引き続き財源が膨らみ続ける状況は明らかです。

そのため、少子化対策だけでなく、「全世代型」の制度を実現するために、医療・介護の改革議論を加速させる必要があると言及されています。

持続可能な制度に向けて、「医療・介護の給付費用抑制」に意欲

そもそも医療・介護の給付費用の状況について、次のように問題が示されています。

経済成⾧率以上に伸びており、現役世代の負担能力を考えれば、持続可能な状況とは言い難い

そのような状況の中で、様々な制度見直しを通じて「今後更に給付費用自体の抑制に取り組む必要がある」としています。

このように、引き続き医療・介護の給費抑制等の歳出改革行いながら、少子化対策にかかる支援の財源を捻出していこうとする姿勢が強く見られます。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋
「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

少子化対策の財源は、社会保障の歳出改革 & 新たな枠組みで

全世代で給付抑制し、負担増で財源を確保する政策は、子育て世代にも影響が及び、少子化対策と矛盾する政策となってしまいます。

そのため、少子化対策強化のための政策にかかる財源を、全世代型社会保障の歳出改革に加えて、
「企業を含めた社会・経済の参加者全員が公平な立場で広く負担する新たな枠組みについて検討する必要がある」としています。

また、現役世代の保険料負担増加についての考えについて次のように示されています。

「医療保険・介護保険制度を持続可能とする改革を継続することにより、
現役世代等の保険料負担の増加を極力抑制する取組みを行うこと」

見方を変えると、少なくとも現役世代等以外の「高齢者」は、保険料負担の増加を「抑制しない」方向性のように見て取れます。

事実、2022年10月より75歳以上の後期高齢者で一定所得以上の方は医療費の自己負担率が2割負担に変わっています。

本建議においては、この取組みを更に推し進め、後期高齢者の自己負担率を「原則2割負担とすることも今後の検討課題ではないか」との意見が記されています。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋
「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

調剤に関連する内容は?

社会保障の歳出改革において、調剤ではどのような改革が求められているのでしょうか。

新型コロナ対応の「正常化」に伴う内容等、間接的に影響する部分は多数ございますが、特に調剤に直接的に影響があると考えられる内容をピックアップしてご紹介いたします。

建議内の次の章にて、調剤に関連する内容が記載されています。

  • 2-(3) 医薬品と産業構造等
  • 2-(4) 医療機関の偏在 
  • 2ー(5) 医療DX
  • 2-(6) その他の課題 ① 薬局

記載の内容について、1つ1つご紹介いたします。

医薬品の保険給付範囲について、早急な対応が必要

薬価については、例年の薬価改定においてマイナスとなっているものの、薬剤費総額は使用量増加等の影響により、増加傾向にあります。

この傾向は今後も見込まれるもので、加えて高額医薬品の収載が増えていることもあり、更なる保険料や国庫負担の増大への懸念を示しています。

その状況を踏まえて、次のような方向性を示されています。

  • 高額な医薬品について費用対効果を見て保険対象とするか判断する
  • 医薬品の有用性が低いものは自己負担を増やす
  • 薬剤費の一定額までは自己負担とする

また、薬剤費総額の伸びと経済成長率の伸びが整合的なものにする仕組みを紹介し、議論の進展を期待する内容が示されています。

いずれにせよ、薬剤費の圧縮については薬局にとって患者数減・薬価差減に繋がる内容のため、実現すれば経営に大きなインパクトを及ぼす内容と言えます。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋
「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋
「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

「医師偏在問題」対策として診療所の開業規制を言及

大都市部・地方部によって医師が偏在する問題についても言及されています。

近年、総患者数は伸びていないものの、診療所数が増加の一途を取っている状況です。

今後は、大都市部は医師・診療所数の過剰、地方部は過小の状況が続く傾向が考えられます。

解決に向けてドイツやフランスの例を示しながら、一歩踏み込んだ開業規制の対応について必要性が示されています。

いざ診療所の開業規制が実現されるとなれば、一般的な門前型薬局の開業も伴って少なくなるでしょう。

店舗拡大を軸とした戦略を持つチェーン薬局においては、非常に厳しい方向性と言えます。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

医療DX利活用により、医療費適正化を推進

医療DXについては、これまでのマイナンバーカードの健康保険証活用や電子処方箋導入により、質の高い・効率的な医療に繋げることの重要性が言及されています。

これらは、従来から進められているもので真新しいものではありません。

新しい視点としては、審査支払機関の評価の視点が盛り込まれています。

韓国の審査支払機関の例として、「審査基準の適合性」だけでなく「療養給付の適正性」を評価し、その評価結果を診療報酬への反映について法定されている例が示されています。

少ない処方薬数を高く評価する(=診療報酬上加算される)といった取組みでしょうか。

具体的な内容は明らかではありませんが、このような取組みを参考にすべきという意見が盛り込まれています。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

多剤・重複投薬解消の算定回数の少なさを問題視

これまでの厚生労働省による「対物から対人へ」の取組みが示されながらも、問題点を指摘されています。

具体的な指摘内容として、多剤・重複投薬にかかる患者や医師との調整を図る「服用薬剤調整支援料1・2」が極めて少ない算定回数にとどまっている点を挙げています。

また、2022年改定の評価体系の見直しについては、「既存点数の一部を表面上対人業務と整理したことにとどまっている」と指摘しています。

具体的な改善の方向性は示されていませんが、より対人業務を充実する方向性を求められているように見えます。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋
「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

リフィル処方箋は保険者にインセンティブ、薬剤師による切替え提案の評価を

リフィル処方箋については、改定時には医療費効率化効果として、改定率ベースで▲0.1%(医療費▲470億円程度)を見込んでいました。

しかし、当初の見込み通りに効果が出ていない状況にあります。

現状の効果は、NPhA調査のデータを引き合いに出して、年間▲50億程度にとどまると指摘しています。

あくまでも試算による数値であり、実際の医療費効率化効果は明らかではありませんが、
未達成の差額分については2024年改定の予算から差し引くことも検討すべきとしています。

リフィル処方箋の普及拡大については、周知・広報を図ることに加えて、次の具体的な仕組みについて提案しています。

  • 積極的な取組みを行う保険者に各種インセンティブ措置により評価
  • 薬剤師がリフィル処方箋への切替を処方医に提案することを評価する仕組み
  • 例えばOTC類似薬については、薬剤師の判断でリフィルに切り替えることを認める

ご覧の通り、医療機関側に対するリフィル処方に関する直接的な評価は言及されていません。

筆者は、これらの対応だけでリフィル処方箋拡大に大きくは繋がらないと感じています。

薬剤師にとって新たな評価や職能拡大は良いことと捉えられるかもしれませんが、医師にとっては診察回数が減るため良い反応は得られないでしょう。

そのため、挙げられた方向性だけでは薬剤師側が積極的な対応ができないだろうと推察しています。

制度普及を進める段階においては、少なからず医療機関側メリットが不可欠であると考えます。

最終的にどうなるか、今後の議論に注目です。

「歴史的転機における財政(参考資料)」(財務省 財政制度等審議会)(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20230529/04.pdf)より抜粋

終わりに

財政制度等審議会より出された春の建議「歴史的転機における財政」の中で、薬局に関連する内容をピックアップいたしました。

これまでの建議では調剤報酬を狙い撃ちにした指摘が少なからず盛り込まれてきましたが、今回の建議ではこれまでの診療報酬改定年の建議に比べ、調剤に関するマイナス面の内容が少なかったのではと感じます。

反対に、薬剤師への新たな評価や職能拡大を通じて、リフィル処方箋を普及・拡大に繋げようとする提案は、近年まれに見る調剤に対するポジティブな内容であると感じました。

とはいえ、建議はあくまでの財務省側の意見書に過ぎません。

最終的にはどうなるかは、骨太方針に反映されるかどうか、今後の中医協でどのような議論が展開されるかによって大きく変わります。

今後も薬局で知っていただきたい行政動向を発信いたしますので、ぜひ継続的にご覧ください。

各種環境変化に対して、自社の対応に悩んでいるという方は、ぜひお気軽に弊社コンサルタントにご相談ください。

(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)

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