調剤報酬改定2024解説 ⑤
長期収載品の選定療養の仕組み導入

本記事では、「長期収載品の選定療養の仕組み導入」をテーマに取り上げます。

令和6年度診療報酬改定は2024年6月1日に施行されますが、長期収載品の選定療養の仕組み導入の時期は、遅れて2024年10月1日からとされています。

この選定療養に関する通知や事務連絡や一部の疑義解釈において情報掲載されているものの、
・そもそも情報がどこにあるかわからない
・表現が難しく書いていて分かりづらい
といったお悩みを抱える方も多いのではと思います。

そこで、長期収載品の選定療養化(以下、本制度)をしっかり理解いただけるよう、2024年7月1日現在の情報を元に詳細解説します。

尚、本記事は厚生労働省発表資料をベースに解説いたします。
本制度に関する情報は概ね以下の厚生労働省ページに掲載されていますので原文を合わせてご確認ください。

厚生労働省HP「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」

目次(こちらをクリックでメニュー開閉できます)

選定療養とは?

選定療養は、簡単に言うと患者が自ら追加費用を支払い選択できる予め定められた特別なサービスと言えます。

一般的なものでいうと、「入院時の個室利用(差額ベット代)」や「紹介状無しの大病院受診」が挙げられます。

医療サービスにおいて、原則は保険診療と保険外診療を同時に受けられないルール(混合診療の禁止)があります。

しかし、予め定められた患者の嗜好により選択するサービスは保険診療と同時であっても全額自己負担にならない「選定療養」とされ、保険診療との併用が可能です。

選定療養の導入目的は、「入院時の個室利用」の様なサービスの差を患者負担額に転嫁する目的が多いですが、中には「紹介状無しの大病院受診」のように患者による自由選択を追加費用で目的で導入づける目的の場合もあります。

長期収載品への選定療養導入の概要

令和6年度診療報酬改定において、長期収載品に選定療養の仕組みを導入する方針が示され、施行が2024年10月からとしています。

導入目的は、長期収載品に係る保険財政負担の軽減にあり、患者による後発医薬品選択の後押しになることが期待されています。

仕組みを端的に説明すると、

・予め定められた後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の処方・調剤で

・患者が長期収載品を希望する場合、

・後発医薬品の最高価格帯の薬価との価格差の1/4相当が選定療養扱いとして追加負担となる

という仕組みです。

厚生労働省の説明動画では、この選定療養に関する内容は、次のスライドで説明しています。

しかし、具体的な対象品目や運用については明記されていません。

「具体的な対象品目や運用等については4月中を目処に通知予定」としています。

選定療養対象の品目は?

選定療養の対象品目について、別の事務連絡で言及されており、基本的な考え方は次の内容を全て満たす医薬品とされています。

(1) 後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる「準先発品」を含む。)であること(バイオ医薬品を除く)。
(2) 後発医薬品が収載された年数及び後発品置換え率の観点から、
    組成及び剤形区分が同一であって、次のいずれかに該当する品目であること。
    ① 後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過した品目
     (後発品置換え率が1%未満のものは除く。)
    ② 後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過しない品目のうち、後発品置換え率が 50%以上のもの
(3) 長期収載品の薬価が、後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価を超えていること。
   この薬価の比較にあたっては、組成、規格及び剤形ごとに判断するものであること。

令和6年4月19日付 厚生労働省保険局医療課事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」より抜粋

大多数の後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)が対象となりますが、具体的な薬剤については厚生労働省よりExcel・PDF形式で対象医薬品リストが公開されています。

長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について(令和6年4月19日事務連絡)
PDF版 対象医薬品リスト
Excel版 対象医薬品リスト
※リンク切れの場合は、以下リンクより資料をお探しください。

厚生労働省HP「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」

施行前に具体的な品目を把握しておきたいという方はご覧いただいても良いですが、実際の運用上では10月以降にはおそらくレセコン等のシステムで対象医薬品は判断できるでしょうから、多くの方はご覧いただかなくとも良いでしょう。

ただ、対象品目であれば選定療養に必ずしもならないという点に十分注意ください。

対象品目がある処方箋において、選定療養対象かどうかの確認・判断が求められます。

対象となる処方の判断方法は?

原則は患者希望により長期収載品を調剤したかどうか判断

原則は患者による長期収載品の希望で調剤したかどうかで選定療養対象の判断でを行います。

ただし、医師・薬剤師により医療上必要と判断されるケースや、後発医薬品の在庫不足で調剤せざるを得ないケース等の長期収載品調剤は対象外とされています。

患者希望の確認が求められるため、処方箋応需時に処方箋の患者希望欄の確認や、患者への直接希望確認により選定療養対象かどうかを都度判断しなければなりません。

新たな処方箋様式に「患者希望」欄が追加

本制度に関連して、対象処方かどうかを判断できるよう、処方箋の様式が見直されています。

変更点は次の通りです。

・変更不可に「(医療上必要)」の記載追加

・患者希望欄の追加

銘柄名処方では、医師による医療上必要との判断がされた時に、「変更不可(医療上必要)」にチェック、患者による希望で処方される時に「患者希望」にチェックをつける運用が基本となります。

ただし、当面は必ずしもこの処方箋様式が用いられず、患者希望の情報がない処方箋が出される可能性が十分考えられます。

運用上、従来の古い様式を手書き修正により対応して良いというルールとなっており、これらのチェック自体が抜け漏れる可能性が考えられるからです。

患者に直接希望したものかどうか確認をする運用が求められるでしょう。

一般名処方は後発医薬品調剤が原則

一般名処方の場合は、後発医薬品が選択されるよう努めることが求められています。

そのため、長期収載品の患者希望がなければ原則後発医薬品を調剤し、もちろん保険適用対象となります。

一方で、調剤を希望した長期収載品は、選定療養の対象とされています。

このように様々な情報から都度判断が求められます。

次に情報整理する上で、フローチャート形式に取りまとめましたのでご参考ください。

長期収載品 選定療養 判断フローの注意点

1点注意点ですが、本フローチャートでは一部情報不足で明確ではないため、「判断フロー(仮)」としています。

明確ではない点として、患者が長期収載品を希望している状況で、該当する後発医薬品の在庫が無い場合の対応が挙げられます。

関連する事務連絡では、後発医薬品の在庫不足に関して次のように言及されています。

(6) 本制度が適用されるのは、次の①から③までのすべてを満たす場合に限られるものであること。
①・② 略
③ 当該保険医療機関又は保険薬局において、後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、後発医薬品を提供することが困難な場合に該当しないこと。

令和6年4月19日付 厚生労働省保険局医療課事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」より抜粋

一見、処方された長期収載品における後発品の在庫が無ければ一律で、患者希望にかかわらず「本制度の適用外」と読み取れそうです。

しかし、その考え方であれば後発医薬品の在庫を意図的に保有しないことで、長期収載品を保険給付で扱うことができる不具合が出てくることが考えられます

筆者の推察では、前述の事務連絡内容の趣旨が、あくまでも患者が後発医薬品希望であっても在庫不足により調剤ができない状況で、致し方なく長期収載品を調剤する場合に保険給付対象とすることを言及しているのではと考えています。

そのため、前述のフローチャート上では、患者希望を優先し後発医薬品在庫がないケースは「保険給付対象」「選定療養対象」としています。

<追記>
後述していますが7月17日付の疑義解釈にて、院内処方における同様のケースの設問がございました。

その内容を踏まえて、解釈を変更しています。

<関連疑義解釈>

問7 院内採用品に後発医薬品がない場合は、「後発医薬品を提供することが困難な場合」に該当すると考えて保険給付してよいか。

(答)患者が後発医薬品を選択することが出来ないため、従来通りの保険給付として差し支えない。 なお、後発医薬品の使用促進は重要であり、外来後発医薬品使用体制加算等を設けているところ、後発医薬品も院内処方できるようにすることが望ましい。

長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1) より抜粋

今後新たな情報がでれば変化する可能性がありますので十分注意ください。

長期収載品希望者への選定療養説明は、特定薬剤管理指導加算3・ロで評価

長期収載品の選定療養に関する説明は、「特定薬剤管理指導加算3・ロ(5点)」で評価されています。

「最初に処方された1回に限り」の記載があり算定の制約はあるものの、「選定療養の対象となる先発医薬品を選択しようとする患者に対して説明を行った場合」は算定対象です。

抜け漏れが無いように準備しましょう。

自己負担額の計算方法は?

患者にとって本制度における最も大きな関心事は、「実際に支払う額(自己負担額)はどう変わるか?」という点ではないでしょうか?

前述の概要説明では、「後発医薬品の最高価格帯の薬価との価格差の1/4相当が選定療養扱いとして追加負担となる」と言及しましたが、単純にこれまでの自己負担額に薬価の価格差の1/4相当を足した額になるわけではないことを十分ご注意ください。

自己負担額の計算においては、次の3点を考慮する必要があります。

・選定療養に係る費用(以下、選定療養費)は消費税課税対象であること
・薬価から選定療養費を控除した額が保険適用の総額(以下、保険外併用療養費)となること
・途中で薬価(円)から点数(点)に変換する処理が求められ、端数処理が発生すること

そのため、本制度導入後の自己負担額を算出することは不可能ではないですが、極めて複雑な計算処理が求められます。

では、具体的にどのような計算処理を行うのでしょうか。

次に具体例で計算方法をシミュレーションしてみましょう。

具体例の前提条件

シミュレーションするにあたり、内服薬A(長期収載品 薬価100円)のみの次の処方を想定いたします。

【Rp1】 内服薬A 3錠 分3毎食後 7日分

また、内服薬Aの後発医薬品の最高価格帯A’の薬価を80円とします。

改定前の長期収載品 薬剤料の計算方法

示した前提条件の元で、まずは通常の薬剤料の計算方法で改定前の長期収載品の薬剤料の計算を確認しましょう。

まず最初に当該処方における単位薬剤料(点数)を計算します。

1剤1日分の薬価合計を算出し、点数に換算し、単位薬剤料は30点となります(図表①部分)。

次に処方日数が7日分のため、先ほど算出した30点×7日分で、計210点が1調剤における薬剤料となります(図表②部分)

尚、単位薬剤料計算時の点数換算する際には、10で割り戻した後に小数点第一位を「五捨五超入」で処理することに注意してください。

(参考)単位薬剤料とは

「単位薬剤料(点数)」は、使用薬剤の薬価(円)を用いて、
・内服薬は1剤1日分
・湯薬は1調剤毎に1日分
・その他(頓服薬、外用薬等)は1調剤分の合計算出し、点数に換算したものを指します

(参考)五捨五超入とは

「五捨五超入」は、5以下の場合は切り捨て、5を越える場合は切上げの処理方法です。薬価を点数に置換える場合は、次のように五捨五超入の処理を行い点数換算します。

例)
・薬価0.01円~15.00円 → 1点
・薬価15.01円~25.00円 → 2点

選定療養費(税抜)の計算方法

特別の料金として徴収が求められる選定療養費については、事務連絡で次の様に示されています。

(8)特別の料金については、(中略)、長期収載品と後発医薬品の価格差の一定割合とすること。

(中略)

具体的には、当該長期収載品の薬価から、当該長期収載品の後発医薬品の薬価を控除して得た価格に4分の1を乗じて得た価格を用いて算定告示の例により算定した点数に 10 円を乗じて得た額とすること。ここでいう当該長期収載品の後発医薬品の薬価とは、該当する後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価をいうこと。
なお、「選定療養」に係る費用として徴収する特別の料金は消費税の課税対象であるところ、前述で算定方法を示している長期収載品の特別の料金の額に消費税分は含まれておらず、前述の額に消費税分を加えて徴収する必要があること。

令和6年4月19日付 厚生労働省保険局医療課事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」より抜粋

では、記載の通り、順番に計算してみましょう。

まずは、長期収載品の薬価A(100円)から、後発品の薬価A’(80円)の差額に1/4を乗じた価格を算出します(図表❶部分)。

計算結果5円が算出されました。

得られた価格から「算定告示の例により算定した点数」を計算します(図表❷部分)。

計算結果は、1.5点となりますが、小数点第一位を五捨五超入の処理が必要で、結果1点が算出されます。

最後に、1調剤の選定療養費(円)を算出します。

前に算出した1点×7日分を計算し、点数から円に換算するために×10円します(図表❸部分)。

結果算出された70円が選定療養費(税抜)となります。

保険外併用療養費の計算方法

次に保険適用対象(10割負担分)となる「保険外併用療養費」を計算します。

計算方法は、事務連絡で次の様に示されています。

(4) 保険外併用療養費の支給額は、所定点数から次に掲げる点数を控除した点数に、当該療養に係る医薬品の薬価から、先発医薬品の薬価から当該先発医薬品の後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価を控除して得た価格に四分の一を乗じて得た価格を控除して得た価格を用いて次の各区分の例により算定した点数を加えた点数をもとに計算されるものである。
① 別表第一区分番号C200に掲げる薬剤
② 別表第一区分番号F200に掲げる薬剤
③ 別表第一区分番号G100に掲げる薬剤
④ 別表第二区分番号F200に掲げる薬剤
⑤ 別表第二区分番号G100に掲げる薬剤
⑥ 別表第三区分番号20に掲げる使用薬剤料

令和6年4月19日付 厚生労働省保険局医療課事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について」より抜粋

では、記載の通り、順番に計算してみましょう。

※本来は、薬剤料以外の技術料が計算に入ってきますが、複雑になるため考慮せずに計算いたします。

まずは、選定療養費の計算と同じく、先発品と後発品の価格差の1/4の薬価を算出します(図表(1)部分)。

結果として算出された5円を、内服薬Aの薬価100円から控除し、95円が結果として算出します。

次に、この95円を元に、単位薬剤料のと同じ計算で、1日分の保険外へ医療療養費(点数)を計算します(図表(2)部分)。

計算結果は、28.5点ですが、小数点第一位を五捨五超入し、28点が最終計算結果となります。

最後に28点×7日分を計算し、点数から円に換算するために×10円することで、1調剤の保険外併用療養費(円)を算出します(図表(3)部分)

最終的に、保険外併用療養費の計算結果は1,960円となりました。

自己負担額の計算

「選定療養費」「保険外併用療養費」が計算できたため、ようやく自己負担額が計算できます。

自己負担額は、「保険分の自己負担額」と「選定療養費(税込)」の合計で計算します。

保険分の自己負担額は、保険外併用療養費に自己負担割合(0割~3割)を掛け、一の位を「四捨五入」することで算出できます。

事例に当てはめると、3割負担の場合で計算すると、590円が算出されます。

そこに、選定療養費(税込)を加えます。

「税込」であるため、先ほど算出した70円に1.1倍した額を加えて、668円が算出されました。

これでようやく自己負担額668円が算出されたことになります。

ここまで非常に細かい計算方法について言及しましたが、結構複雑だとお感じになられた方は多いのではと思います。

実際の運用でここまで細かい計算方法を把握してなくとも、本制度の開始後はレセコンで計算されるでしょうから、業務運用は可能でしょう。

しかし、本制度の開始前に制度説明する際には、誤った情報をお伝えしないように、しっかりと計算方法を理解いただくことをお勧めいたします。

(2024年7月16日追記)疑義解釈等の新しい情報が発表されました!

7月12日付で、本制度の計算方法に関する詳細情報や疑義解釈が発表されています。

次の原文リンクまとめページに情報追記いたしましたのでご参考ください。

尚、計算方法については、前述の通りで変更はございません。

疑義解釈については、「医療上必要」の考え方や公費負担患者の対応等が記載されています。

求められる患者対応

本制度の開始にあたり、特に自己負担額が増加する可能性がある内容のため、丁寧に患者説明することが求められます。

厚生労働省としても、本制度の丁寧な説明を期待し、「特定薬剤管理指導加算3・ロ(5点)」で評価をしています。

しかし、本制度の開始前10月までの説明は、「長期収載品を選択した場合、自己負担額が増える可能性がある」という点に留めておき、詳細の自己負担額等の詳細説明は慎重にした方が良いと筆者は考えています。

理由としては次の点が挙げられます。

・選定療養対象の医薬品であっても、医師の判断により選定療養対象とならない可能性がある
・自己負担額の計算が複雑で、(レセコン等のツールがない限り)算出が困難である
・まだまだ解釈がはっきりしていない点がある(厚生労働省からの公式情報が事務連絡が中心で不十分) 

早期な説明はメリットはあるもののの、誤った金額を伝えることで後にトラブルが発生するリスクや、説明ツールが十分に整備されておらずうまく患者に伝わらないリスク等が考えられます。

もちろん、事前に伝えなければよりトラブルが発生するリスクもあるため、各薬局にて判断が必要です。

いずれにせよ、薬局内のスタッフは本制度を十分理解し業務が求められるため、薬局内での周知は不可欠です。

早めの準備・対応方針決定をお勧めいたします。

最後に、患者説明において、弊社で参考となる掲示物をご用意しましたので、ご活用ください。

■掲示物サンプル配布ページ

長期収載品 選定療養化 告知ポスターサンプル

※ユーザー登録者・薬局経営者研究会会員のみダウンロード可

(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)

概要・配布ファイル

ユーザー用ファイル
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薬局経営者研究会会員用ファイル
  • ファイル無し

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