VUCA「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字)」の時代と言われて久しいですが、その先行き不透明さは増すことはあれ、減ることはないように見受けられます。こうした時代には本質を見る眼が求められ、そのための方法の一つがシステム思考です。
「システム思考とは、ものごとの繋がりや全体像を見て、その本質を捉えようとする考え方」(『「学習する組織」入門』 より)と定義されています。(※ここでいう「システム」はITやコンピューター等を意味する日本語の「システム」ではなく、「ものごとの繋がりを動的にとらえた構造」のこと。)
目の前に見えている「出来事」だけに反応するのではなく、
その内容を「時系列の変化」で見据え、
その背景・根底にある「構造」・「メンタルモデル」にも目を向けて、
その「本質」を捉えよう!
というものです。
このことは、図のような氷山モデルで表せます。
ある薬局での事例です。
・「出来事」:データドリブン(データ分析による課題推進)と考え数値目標を各店単位での利益管理を行うことで、その確保は進んだが、店舗の雰囲気が悪くなり離職者が増えていました。それに対し経営陣は「成長する上で一定の離職者が出るのは仕方がない」とし、更なる目標設定を進めていました。
・「時系列変化」:データに基づき店舗の数値目標設定⇒それに基づく店舗の取り組み・進捗管理⇒一定の目標推進⇒利益拡大⇒更なる目標の設定・推進⇒現場の負担増⇒職場の風土悪化⇒離職者増⇒更なる目標の設定・・・
・「構造」:目先の利益を追って持続的な成長は難しい構造に
・「メンタルモデル」:
現場:「しっかりやらないと」「これだけやったらいいのだろ」「これ以上何をやれというの」・・・、
経営層:「数値で成果が出ないと」「まだやれる」「会社が変化する上で離職者が一定数出るのはやむを得ない」・・・
従業員層:「とりあえず、数値を出せばよいのでしょ」「数値をやれば文句ないよね」「そんなのにはついていけない」・・・
といった感じです。
このような全体像を共有した上で、利害関係者で対話し、「時系列の変化」、「構造」、「メンタルモデル」を共通認識とし、
「そういう背景があったのか」、「そんな見方をしていたのね」、
「そういうことがあったのなら、そうした行動を取ることも分からなくはない」、
「私が過去の発言が影響を与えていたのね」
といったことに気づき、その出来事を生み出している本質の理解が深めていくのです。そして、
「木を見て森を見ず」ではなく、本質的な対策を考えていくことが可能となります。
変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の時代、目の前に見えていることだけに反応すると、一時的にはうまくいくこともありますが、中長期的に見るとそのしっぺ返しを食らうことは少なくありません。少し手間がかかることがあるかもしれませんが、「急がば回れ」、時間軸を長くとれば結果的にはその方が効率的であったりするのです。
皆さんの組織でも、課題の取り組みが表面的な活動となり、組織の停滞を招いていないかをこのよう視点を持って見直すことを試みてください。
2023.08 株式会社ネグジット総研経営コンサルタント 久保 隆