はじめに
ご覧いただき誠にありがとうございます。
薬局経営コンサルタントの津留です。
さて、ただ今ご覧いただいている本コンテンツは、
「クローズアップ調剤行政」
と題した、シリーズコンテンツです。
調剤に関連する行政動向の中で、特に注目度の高いテーマを毎月ピックアップ解説致しております。
具体的には、
- 厚生労働省・内閣府・財務省を中心とした行政より発表される会議資料
- 通知、事務連絡等の資料 等
を取り上げています。
記事更新は主に月初めで、前月の発表資料を中心にご紹介いたしますので、毎月継続的にご覧いただければ、調剤に関する行政動向を把握するに役立ちます。
ぜひ継続してご覧いただければ幸いです。
尚、各種記事に関するご質問等、個別のご相談は薬局経営者研究会の会員企業様に限り無料で承っております。
興味がある方はぜひご入会を検討ください。
5月配信版「クローズアップ行政」のテーマは?
前回記事、4月配信版「クローズアップ調剤行政」では、
新型コロナ「5類」感染症移行に伴い、変更となる診療報酬上の評価について解説いたしました。
◆4月配信版 クローズアップ調剤行政記事は以下よりご覧ください。
実は、3月の調剤行政動向として取り上げるか悩んだテーマに、もう1つ別のテーマがございました。
それは、
「令和4年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(以下、改定調査)」です。
4月の行政動向は動きが少なかったので、
本記事では少し前の話題ですが、「リフィル処方箋」に関する改定調査をテーマにお届けします。
そもそも改定調査では何を調べているの?
そもそも改定調査は、診療報酬改定の影響を調査する目的で行われます。
例年診療報酬改定の年度内に、医療機関(病院・診療所)、保険薬局、患者等を対象に郵送・インターネットでアンケート調査し、最終的に報告書を取りまとめ中医協で報告されます。
2022年3月22日の中央社会保険医療協議会にて、その改定調査の報告書案が報告されました。
調査結果は、次回診療報酬改定の根拠資料となるものですから、筆者自身、毎回の診療報酬改定プロセスの中でも、非常に重要視している資料です。
調査するテーマは、前回診療報酬改定の内容に沿ったテーマが設定され、令和4年度調査では次のテーマで調査が実施されています。
(1)在宅医療、在宅歯科医療、在宅訪問薬剤管理及び訪問看護の実施状況調査
(2)精神医療等の実施状況調査
(3)リフィル処方箋の実施状況調査
(4)後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査
(5)明細書無料発行に関する実施状況調査
すべての内容を取り上げたいところですが、
今回は、
「リフィル処方箋」
の実施状況調査の報告案に絞ってご紹介差し上げます。
尚、本記事で取り上げる「リフィル処方箋」以外の報告案をご覧になりたい方は、以下記事にて取りまとめていますので、ご参考ください。
https://mc.nextit.co.jp/revision-of-fees/246556/
そもそも「リフィル処方箋」とは?
「リフィル処方箋」は、
一定期間内に定められた回数に限り反復利用できる処方箋
のことを指します。
これまで何度も、話題になっては制度化に至らない状況が続いていましたが、令和4年度(2022年)診療報酬改定でようやく制度化されたところです。
リフィル処方箋の政府の狙いは?
そもそものリフィル処方箋制度化における政府の狙いはどこにあるのでしょうか。
名目上は、
● 患者の通院負担軽減
とされています。
とはいえ、実際はその先の、
● 通院の適正化による医療費削減
を意識したものと考えられます。
事実、2021年末に示された令和4年度診療報酬改定率には、「リフィル処方箋導入・活用促進による効率化」の予算削減効果を見込んだ改定率が設定されています。
医療費削減効果を出すには、制度を作って終わりではなく、リフィル処方箋の仕組み認知が進み、実際に多く利用される状況が不可欠です。
政府としては、リフィル処方箋の周知・広報の推進とともに、普及・定着の仕組み整備の方針を打ち出しています。
(参考)骨太方針2022 リフィル処方箋関連部分抜粋
「良質な医療を効率的に提供する体制の整備等の観点から、
令和4年6月7日「経済財政運営と改革の基本方針2022」https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf
2022 年度診療報酬改定により措置された取組の検証を行うとともに、
周知・広報の推進とあわせたリフィル処方箋の普及・定着のための仕組みの整備を実現する。」
では、現在のリフィル処方箋の活用状況はどれほどのものでしょうか。
調査報告書案から、気になるポイントをピックアップしてきます。
調査概要
本調査は、病院・診療所、保険薬局、患者に対して、リフィル処方箋に関する幅広い内容にわたります。
データを見るにあたって注意点ですが、数百件に及ぶサンプルの郵送調査のため、それなりの信頼度のある調査ではあるものの、一部対象を絞り込んだ設問に関しては、回答母数が少なく偏りがある可能性がありますのでご注意ください。
では実際のアンケート結果を見てきましょう。
(以下、画像をクリックすると新しいタブで拡大表示されます。)
上記すべて、厚生労働省 令和5年3月22日 中央社会保険医療協議会「リフィル処方箋の実施状況調査報告書(案)<概要>」(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001078525.pdf)より抜粋
リフィル処方箋を発行しない理由1位は、「患者からの求めがないから」
まずは、病院・診療所の調査結果からご紹介いたします。
多くの医療機関においてまだリフィル処方箋を発行していないというのは、予想できるかと思いますが、実際どのような理由で発行していないのでしょうか。
画像「病院・診療所調査の結果⑦」は、リフィル処方箋を発行しなかった理由の回答結果です。
最も多い傾向にあるのは「患者からの求めがないから」で、次点に「長期処方で対応が可能だったから」という結果でした。
患者の希望があれば、リフィル処方を検討する施設が過半数
次の画像「病院・診療所調査の結果⑨」は、今後の見通しについての回答結果です。
リフィル処方箋を「積極的に検討する」もしくは「患者希望があれば検討する」とされている回答が、「実績なし/発行なし」の区分を除いて過半数であると読み取れます。
これらの結果から、現時点で患者からの要望が無く、長期処方で問題無い状況であえてリフィル処方箋を選ぶ理由が無いが、患者からの希望があれば検討するという医療機関がそれなりにあると見て取れます。
※<注意点>集計区分について
グラフ内「リフィル処方箋の発行実績有り / 発行したことがないと回答」の集計区分について、一見矛盾する表示に見えますが誤りではございません。
「実績有り/無し」と「発行したことがある/なし」は、次の通り異なる意味を持ちます。
・「リフィル処方箋の発行実績が有り/無し」は、レセプト情報等のNDB上でリフィル処方箋の発行実績が有り/無しの対象へ実施したアンケート対象の区分
・「リフィル処方箋を発行したことがある/なし」は、調査票内の設問で「発行したことがある/なし」のアンケート回答結果の区分
リフィルに積極的な病院・診療所は、「医師負担軽減」が目的
次に、リフィル処方箋を「積極的に検討する」と回答した理由を見てまいります。
画像「病院・診療所調査の結果⑩」は、では「積極的に検討すると回答した理由についてみると、「医師の負担軽減につながるから」が最も多く、次いで「患者の待ち時間が減るから」であった。」とされています。
尚、本データは回答数がかなり限られたものになるため、参考程度にしておいた方が良いかも知れません。
リフィルに消極的な理由は、「患者の症状変化に気づきにくくなるから」
先ほどの設問とは反対に「検討には消極的」と回答した理由はどうでしょうか。
画像「病院・診療所調査の結果⑪」の通り、最も多い理由に、「医師が患者の症状の変化に気づきにくくなるから」が挙げれられています。
また、次点に「お薬を処方する際には、医師の判断が毎回必須と考えるから」となっています。
これらで挙げられた問題は、トレーシングレポート等で薬局薬剤師が補完することにより解決できる問題かもしれません。
リフィル患者のトレーシングレポートは、全体の4%程度
とはいえ、リフィル処方箋の患者に対して、十分医師への情報提供ができていると言えない状況でしょう。
情報提供に関する保険薬局の調査結果をご紹介いたします。
次の画像「保険薬局調査の結果⑤」は、リフィル処方箋患者の情報提供書経験に関する設問結果です。
服薬指導提供書(トレーシングレポート)の提供は「ない」が大多数となっており、「ある」がわずか4.0%という結果でした。
この結果の背景に様々な理由が考えられますが、医師側のリフィル処方箋における不安感を解消するためには、より一層薬局側が意識的に情報発信する必要性を強く感じます。
※トレーシングレポートについて、「服薬指導提供書」の言葉は馴染みがなく、「服薬情報等提供書」が一般的かと思いますが、アンケート調査票・報告書案通りの表記をしています。
リフィル利用者の多くは医療機関近隣利用、住まいの近くが次点に
続いて、患者調査(郵送)の結果をご紹介いたします。
患者調査(郵送)は、病院・診療所・薬局調査のアンケート回答施設の患者に対する調査です。別で実施した患者向けのインターネット調査と比べて、施設側が回答対象となる患者を設定していることもあり、リフィル処方箋の認知度や交付実績については高い結果であることはあらかじめご留意ください。
まず、リフィル処方箋を交付された経験についてですが、画像「患者調査の結果②」に示されています。
「あり」の回答が少数派であるのは予想できるところと思いますが、割合が高い順に50代が15.1%、40代が11.1%という結果でした。
リフィル処方箋は、症状が安定している慢性患者が想定されるため、高齢者がメインターゲットであると思っていましたが、実際はもう少し若く、筆者としては意外な結果でした。
新しい制度のため、理解をしていただきやすい方から普及が進んでいるのかもしれません。
2回目以降は高リピート率、初回に選ばれるかが重要
続いて、画像「患者調査の結果⑦」の1回目の処方でどこの薬局に行ったかを問う設問結果です。
近隣の医療機関がリフィル処方箋を発行するようになれば、最も気になる患者の動きかと思います。
傾向としては、すべての年代において「受診した医療機関の近隣の薬局」が多く、次いで「お住まいの近くにある薬局」という結果でした。
本設問の回答者が少ないので、偏りがあろうかと思いますが50~70%程度は医療機関近隣の薬局、20~40%程度は住まいの近くの薬局に行かれているという結果でした。
この結果は、もしリフィルが広く普及した場合、近隣医療機関に依存する薬局であれば、非常に厳しい環境であると言えるでしょう。
とはいえ、画像「患者調査の結果⑧」の設問結果の通り、一度選ばれば、2回目以降も継続される傾向が表れています。
いかに1回目に選ばれうる薬局になれるかが、というのがリフィル処方箋が普及の際には、重要なポイントになるでしょう。
まとめ
リフィル処方箋の改定調査の中で、特に気になる設問をピックアップいたしました。
ご紹介した内容は報告書案のごく一部の内容ではあるものの、
- 医療機関がリフィル処方箋を発行しない理由は、「患者の求めがないから」が高い傾向にある
- 今後の見通しが、消極的な理由は「変化に気付きにくくなるから」が高い傾向にある
- 積極的な理由は、「医師の負担軽減」「待ち時間削減」が高い傾向にある
- リフィル処方箋患者のトレーシングレポートの提供経験は「ある」がごく僅か
- リフィル処方箋患者は、一定数は「住まいの近く」の薬局に流れ、2回目以降も継続が多数
といった結果が示されていました。
リフィル処方箋が仮にこのまま広く普及していく動きになるのであれば、対象患者に関するトレーシングレポートの提供はより一層求められるでしょう。
また、リフィル処方箋で初回に選ばれる薬局になれるかどうかが重要で、
- いかに既存患者との信頼関係を築いていくか
- いかに信頼度の高い患者にリフィル処方箋を啓発できるか
が生き残りのポイントになるのではと感じます。
対応策に悩んでいるという方は、ぜひお気軽に弊社コンサルタントにご相談ください。
おわりに
2023年3月に発表された調剤関連の行政動向にあったリフィル処方箋における改定調査に関する話題を取り上げました。
今回の記事は以上です。次回は5月の行政動向解説記事を予定しています。ぜひご覧ください。
(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)
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