はじめに
調剤に関連する行政動向で特に知っていただきたい内容取り上げて、解説するシリーズ「クローズアップ調剤行政」をお届けします。
本記事シリーズでは、
- 厚生労働省・内閣府・財務省より発表される会議資料
- 通知、事務連絡等の発表資料
を中心に調剤に関連する内容をピックアップ・解説します。
毎月継続的にご覧いただければ、調剤に関する行政動向をおおよそ把握できるようなコンテンツを目指します。ぜひ継続してご覧いただければ幸いです。
尚、各種記事に関するご質問等、個別のご相談は薬局経営者研究会の会員企業様に限り無料で承っております。興味がある方はぜひご入会を検討ください。
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2023年1月実施の会議・通知情報
2023年1月に実施された主な会議・発出された通知情報は次の通りです。
厚生労働省
- 2023年01月12日 令和4年薬機法等改正の施行状況(電子処方箋他について)|令和4年度第2回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会
- 2023年01月16日 オンライン資格確認等システムについて|第162回社会保障審議会医療保険部会
- 2023年01月18日 令和6年度診療報酬改定に向けた検討の進め方 他|中央社会保険医療協議会 総会(第536回)
- 2023年01月27日 オン資経過措置の留意事項|厚生労働省保険局医療介護連携政策課長通知
- 2023年01月31日 令和5年度4月1日からの診療報酬上の特例措置について|通知・事務連絡
内閣府
- 特に重要会議等はなし
財務省
- 特に重要会議等はなし
2023年1月で気になる行政動向は?
2023年1月における行政の動きは、
前月12月に比べ調剤関連の会議議題等が少なく、落ち着いた印象はあります。
そんな中で、
- 電子処方箋 1月26日~本格運用スタート
- 令和6年度診療報酬改定に関する議論がスタート
といった皆様の関心度が高い話題がございました。
詳細についてポイント解説いたします。
電子処方箋 1月26日~本格運用スタート
1月26日より電子処方箋がようやく本格運用スタートしています。
これまでは、「電子処方箋」モデル事業として山形県酒田、福島県須賀川、千葉県旭、広島県安佐の4地域でシステム面・運用面の検証が行われておりました。
モデル事業の課題や先進事例等を踏まえて、2023年1月26日にようやく本格リリースとなり、準備が整った全国の医療機関・薬局で「電子処方箋」が利用できるようになっています。
とはいえ、準備が整い「電子処方箋」が利用できる医療機関・薬局数はまだまだ少ないです。
厚生労働省の2023年1月29日時点の発表リストでは、
病院6件、診療所13件、歯科医院2件、薬局187件と、合計208件に留まりました。
あくまでも、運用スタート直後の数値で、準備を進めている途中の施設は多く、まだまだ伸びると予想されます。しかし、現時点においては全国的には「電子処方箋」が対応できている医療機関・薬局はまだまだ希少な存在にあることは否めません。
(以下、画像をクリックすると新しいタブで拡大表示されます。)
電子処方箋の効果は?
電子処方箋が今後どれだけ普及していくかが、ご覧の皆様は気になるところかと思います。
今後の先行きがどうなるかを考えるにあたって、電子処方箋でどのような効果が生み出されるか、という視点が重要でしょう。
厚生労働省の医療機関向けに発表された資料では、電子処方箋が導入されて「病院・診療所(薬局)できるようになること」として次の3点を示しています。
- 直近の患者情報を踏まえた診察・処方(調剤・服薬指導)
- 医師・薬剤師との円滑なコミュニケーション
- 重複投薬等の抑制
上記の効果がモデル事業でどれだけ実現されているのでしょうか。
モデル事業における電子処方箋サービス利用状況
データ登録・重複投薬等チェック件数
モデル事業での電子処方箋サービスの利用状況として、2023年1月6日時点で報告があります。
データ登録件数は、
90,241件(医療機関65,184件、薬局25,057件)
重複投薬等チェック実施件数は、
155,812件(医療機関104,105件、薬局51,707件)
で報告されています。
更に、チェック実施の内、重複投薬等として検知されたのは、医療機関側で3,812件、薬局側で4,337件とされており、チェック件数に対する検知率が医療機関側で約3.7%、薬局側で約8.4%となっています。
検知した重複投薬等がすべて解消されるとは限りませんが、相当数の重複投薬が検知されているため、重複投薬等の抑制効果は非常に大きいことが考えられます。
導入施設の評価の声
また、モデル事業での声が厚生労働省説明資料で紹介されています。
「医師は特に電子処方箋を意識することなく、これまでと同じ処理を進めていけば電子処方箋が発行される。」
「重複チェックや治療状況が見えるようになり、服薬指導においても患者のアドヒアランスに良い影響がある」
(次の画像 厚生労働省説明資料より一部抜粋)
これまでの業務やパソコン画面と大きく変わらず、閲覧できる情報が充実したという前向きな声があるようです。
電子処方箋サービスは今後どれだけ普及するか?
このように、電子処方箋サービスは、利用者側の負担が少なく重複投薬等の抑制に繋がるといった効果は大いに見られるものの、
早期にサービス普及が進むかというと別の話です。様々な課題解決が必要でしょう。
短期的にはシステム事業者の対応がネックに
厚生労働省のアンケート調査(※)では、オンライン資格確認導入済み施設の7割超が「電子処方箋の導入意思がある」と回答されています。施設側の導入意志がそれなりに多くありますが、導入がすぐに進むというわけではございません。
短期的には、医科・調剤レセコンやカルテ・薬歴等のシステム事業者側の導入改修の対応がネックとなります。導入済みの施設の声で、導入作業が対面でなく、オンラインのリモート対応で意外と短時間であったという声がありました。短時間に対応できるといっても、システム事業者側にとっては大きな負担であるのは変わりません。導入作業+説明で1~2時間程度であったとしても、各施設にそれだけ時間を費やす必要があります。今後も導入ペースの遅れに繋がることが十分考えられます。
※1 厚生労働省説明資料「開始目前!これならできる、電子処方箋」内紹介アンケートより抜粋(厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001030623.pdf)
中・長期的には診療報酬上の評価が不可欠?!
システム事業者が対応でき、7割の導入意志がある施設に導入完了できたとしても、厚生労働省が掲げる数値目標達成には至りません。現在、数値目標として次の内容が設定されています。
- 2023年3月末 オン資導入済み施設 7割導入
- 2024年3月末 オン資導入済み施設 9割導入
- 2025年3月末 オン資導入済み施設 概ね全て導入
※上記、必要に応じて適宜見直しの方針はあり
電子処方箋の導入にあたって、補助金等がありながらもコスト負担があり、規模によっては数百万円単位の負担を強いられる施設もございます。筆者としては、導入を加速させるためには、診療報酬上の評価も不可欠ではないかとと考えています。
令和6年度診療報酬改定に関する議論がスタート
電子処方箋の対応を含めて、次回の診療報酬改定がどうなるか、非常に気になるところです。
令和6年度(2024年)診療報酬改定の議論は1月18日の中央社会保険医療協議会でスタートしています。
まずは、次の通り今後のスケジュール案が提示されています。
例年の診療報酬改定と違うポイントは、次回改定は介護報酬改定と同時改定であるということです。
そのため、同時改定に向けて中医協と介護給付費分科会との「令和6年度同時報酬改定に向けた意見交換会」が3月より3回程度実施される方針が示されています。
在宅における薬剤管理について、少なからず話が挙ることが考えられます。
その他は、例年の診療報酬改定の流れと同様です。
4月から夏までに広く課題毎に議論し、秋頃より本格的に個別改定項目について議論が進められる方針が示されています。
具体的にどのような改正があるかはこれからの議論次第になりますが、少なからず「医療DX」のテーマが挙げられていますので、今回本格運用スタートした「電子処方箋」に関する新たな点数体系がでてくるかもしれません。
おわりに
2023年1月に発表された調剤関連の行政動向について、特に知っていただきたいポイントをご紹介いたしました。
電子処方箋に関する情報は皆様非常に気になる内容かと思いますので、今後も新しい情報あればご紹介します。
今回の記事は以上です。次回は2月の行政動向解説記事を予定しています。ぜひご覧ください。
(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)