本質を観る力
~抽象的概念形成力を高める~

変化の時代・VUCAの時代においては、「表面的な理解に終始するのではなく本質を観る力を高める必要がある」といった言葉をしばしば耳にします。そこで、今回は「本質を観る力」について取り上げて参ります。

「本質」とは何かを深めていくとその起源は、ソクラテスが「~とは何か」の問いで求めたことにいきあたるようです。NHKのTV番組『100分de名著』に哲学書の解説で度々登場されている東京医科大学教授の西研先生は、ソクラテスの定義をもとに「○○」の本質とは「○○」と呼ばれるすべてに共通し、その名で呼ばれるために必要な条件とされています。本質とは、対象概念の最大公約数であり、かつその概念がそうあるための必要条件であるということです。この本質を深めるための手法を「本質観取」と呼び、その具体的なやり方の例には次のような手順が挙げられます。

  1. テーマについての問題意識(気になること、考えたいこと)を出す。  
  2. 具体的な体験や、言葉の用例を出す。※エピソードの交換もあるとよい。  
  3. それらから、テーマに関連する共通な特徴を引き出す。
    ※ときにカテゴリー(種類)分けが必要・有用になることも。共通性どうしの関連を考えたり、それらの根拠となっているものを考えたりする。
  4. テーマについてのマトメの文章を作成する。
  5. 最初の問題意識に答える。     
    ※参照:『現象学とは何か:哲学と学問を刷新する』竹田青嗣, 西研著(河出書房新社)

西先生は医学生・看護学生に対しても「医療」「健康」といったことの本質を深めるために対してこの本質観取のワークを行っておられます。そうすると次のようなことが見受けられたようです。

・具体化能力・エピソードを話す力が弱い。

具体的な体験を上げることを求めると「特にありません」や「『うれしかった』『楽しかった』だけで終わる」といったような回答をする学生も少なくないとのこと。自己の体験を言語化することに慣れていない学生が多いのです。

・出てきた体験から抽象的概念を形成することが苦手

まさしくこの部分が本質を紡ぎ出す場面なのですが、その際に求められる抽象的概念に対する意識や語彙力が不足する場面が散見される

・トレーニングをすると高まっていく

しかしながら、このようなワークを授業で半年、一年と続けていくと明らかに成長していく、要するにそのような体験を今までしてこなかっただけだと。筆者と一緒にこの西先生の本質観取のワークショップを受けた仲間に高校の先生がいたのですが、彼によると高校生になると生徒の抽象的概念形成力に大きな差ができているというのです。どうも、小学校時代などに学校から自宅に帰った際に親から「今日学校どうだった?」「そう、どんなことがあったの?」と訊かれて育ったかどうかが、その差が生みだす大きな要因の一つとのことでした。

このように本質を観るという行為は、物事をより個別具体的に見る力とそれらを俯瞰して抽象的概念を形成する能力の両方を駆使することが求められます。このことは、以前紹介したように成人のフラクタルな発達の促進に必要とされることなのです。(下図参照)


冒頭に書いたように、変化の時代・VUCAの時代では、変化する環境の中でその軸となっている構造≒本質を見極める力を持つことが重要となります。そのためには抽象的概念形成力の強化は不可欠で、それはトレーニングによって高められます。加えて、そのことは様々なスキルを伸ばすことの基礎にもなるのです。ぜひ、皆さんもこのことを念頭に時代の変化に対応していってください。

2022.07 株式会社ネグジット総研経営コンサルタント 久保 隆

概要・配布ファイル

ユーザー用ファイル
  • ファイル無し
薬局経営者研究会会員用ファイル
  • ファイル無し

関連記事

関連記事はありません