骨太方針2025で調剤報酬はどのような影響を受ける?
~クローズアップ調剤行政【2025年7月配信版】~

はじめに

ご覧いただき誠にありがとうございます。薬局経営コンサルタントの津留です。

「クローズアップ調剤行政」7月配信版の記事をお届けします。本記事シリーズは、調剤に関連する行政動向の中で、特に注目度の高いテーマをピックアップ解説致します。できるかぎり記事更新は月初めで行い、前月の行政関係の発表資料を中心にご紹介する見込みです。毎月継続的にご覧いただければ、調剤に関する行政動向を把握するに役立ちますので、ブックマーク登録して定期的にご覧ください。

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2025年6月実施の会議・通知情報

クローズアップ調剤行政【2025年7月配信版】では、2025年6月の気になる行政動向を紹介します。

6月中に実施された調剤関連の主な会議資料・発出された通知等の資料は次の通りです。


6月においては、内閣府より政府方針資料が多数発表されています。主に薬局に関連しうる内容が記載されているのは、次の3つの方針・計画資料です。

  • 経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)
  • 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改定版
  • 規制改革実施計画

どれも重要な資料ですが、本記事では具体的な医療に関する記載が多く薬局においても多数影響が考えられる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を中心に解説をいたします。

骨太の方針とは?

「骨太の方針」とは、内閣府が毎年策定する、国の経済財政運営と改革の基本的な方向性を示す指針です。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」といい、内閣総理大臣を議長とする経済財政諮問会議での議論・答申を経て、政府が閣議決定します。これは、翌年度以降の予算編成の基礎となる重要なロードマップであり、各省庁の政策や制度設計に多大な影響を与えるものです。毎年6月頃に閣議決定されるのが通例であり、来年度の予算編成や、社会保障制度改革の方向性を占う上で非常に重要な文書となります。

特に、2025年度の骨太の方針(以下、骨太方針2025)は、石破政権になって初めての骨太方針となります。そのため、現政権の経済・財政運営に対する明確な意思と、将来に向けたビジョンが色濃く反映されることが予想され、その内容に注目が集まっています。

それでは、まず骨太方針2025の全体像をから見ていきましょう。

骨太方針2025の全体像

骨太方針2025は、「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ」という副題を掲げ、日本経済の再生と持続可能な社会の実現を目指すものです。その全体像は、以下の4つの章で構成されていますが、各論の詳細は主に第2章と第3章に記述されています。

  • 第1章 マクロ経済運営の基本的考え方
  • 第2章 賃上げを起点とした成長型経済の実現
  • 第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現
  • 第4章 当面の経済財政運営と令和8年度予算編成に向けた考え方

原文資料:
経済財政運営と改革の基本方針2025 ~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~(本文)

次に示す画像は、概要資料として公開されている資料です。概要資料とは言え、文字量が多く、全体像を把握しにくい側面がありました。より分かりやすく整理された情報は、首相官邸のウェブサイトなどで紹介されている概要資料が参考になるでしょう。

物価上昇を上回る「賃上げ」が方針の柱

骨太方針2025において、政府が最も重視し、最優先課題として位置づけているのは、「賃上げを起点とした成長型経済の実現です。具体的には、物価上昇を1%程度上回る賃上げの定着を目指すことが明記されています。この賃上げへの強いコミットメントは、政府が掲げる別の重要方針である「新しい資本主義のグランドデザイン」においても「医療・介護・保育・福祉等の現場での公定価格の引上げ」が言及されており、その中で医療分野の報酬改定にも明確な示唆が与えられています。

本文には、「これまでの歳出改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、次期報酬改定を始めとした必要な対応策において、令和7年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う。」と明記されており、次期報酬改定を通じて、現場で働く方々の賃上げに確実につなげる方針が明確に示されています。

2024年度診療報酬改定においても、医療従事者の賃上げは大きな焦点となり、一定の評価に繋がりました。しかし、急激な物価上昇に対応するために、賃上げが国民生活に十分に波及し、持続的な経済成長へと繋がるためには、引き続き賃上げを最重要課題として取り組む必要があるという認識が示されていると言えるでしょう。したがって、次期調剤報酬改定においても、賃上げへの対応は引き続き極めて重要な論点であり、その動向によっては更なる評価へと繋がる可能性も示唆しています。

続いて、医療における個別の課題に関する部分を掘り下げて見てまいります。

調剤報酬改定への具体的な示唆

骨太方針2025では、医療に関する個別課題が第3章「中長期的に持続可能な経済社会の実現」の中の「全世代型社会保障の構築」に位置付けられ、具体的に言及されています。ここでは、特に調剤報酬や薬局経営に関連が深いキーワードを中心に抜粋してご紹介します。

OTC類似薬の保険外しを言及

まず冒頭では、医療従事者の処遇改善や賃上げに関する内容に加え、持続可能な社会保障制度を構築し、効率的かつ質の高い医療の実現を目指す方針として、以下の項目が盛り込まれています。

  • OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し
  • 地域フォーミュラリの全国展開
  • 新たな地域医療構想に向けた病床削減
  • 医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現
  • 現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底
  • がんを含む生活習慣病の重症化予防
  • データヘルスの推進などの改革

なかでも「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」は、これまで保険適用されていた一部の医薬品が、将来的に保険給付の対象外となる可能性を示唆しています。これは患者の自己負担増に直結するだけでなく、保険薬局にとっては処方箋応需の機会が減ることにもつながりかねず、経営上の影響が懸念される項目です。

医療関係団体からは、国民皆保険制度の理念に関わる重要な問題として、慎重な議論を求める声も多く上がっています。

全世代型社会保障の構築、医療DXによる生産性向上・省力化を

次に、「中長期的な時間軸を見据えた全世代型社会保障の構築」に関する項目を見ていきます。これは、日本の医療・介護提供体制全体を、将来にわたって持続可能な形へと再構築するための基本方針を示すものです。

具体的には、次のような施策が挙げられています。

  • 医療・介護DXやICT、介護テクノロジー、ロボット・デジタルの実装やデータの二次利用の促進
  • 特定行為研修を修了した看護師の活用
  • 医療・介護・障害福祉分野の生産性向上・省力化
  • 地域医療連携推進法人、社会福祉連携推進法人の活用
  • 小規模事業者のネットワーク構築による経営の協働化・大規模化
  • 障害福祉サービスの地域差の是正
  • 医療機関、介護施設、障害福祉サービス等事業者の経営情報の更なる見える化
  • 医療・介護・障害福祉分野の不適切な人材紹介の問題について実効性ある対策

これらは必ずしもすぐに調剤報酬上の点数へと反映されるとは限りませんが、医療・介護DXの推進は本章でも繰り返し登場し、政府の重点施策であることが強調されています。

薬局に関しては、すでに「医療DX推進体制整備加算」などが導入されており、今後はその内容や評価方法の見直しが進む可能性があります。制度改定を見据え、薬局としても医療DX対応・業務効率化を早期に進めておく必要があるでしょう。

中長期的な医療提供体制の確保等

続いて、「中長期的な医療提供体制の確保等」の項目を紹介します。医療提供体制に直接関わる内容が多く、薬局・薬剤師業務にも間接的な影響を及ぼす重要なテーマです。ここでは、特に調剤報酬や薬局業務に関係の深いキーワードをピックアップし、簡潔に解説します。

かかりつけ医機能の発揮される制度整備

「かかりつけ医機能の発揮される制度整備」が盛り込まれています。これは、2024年に新たに開始された「かかりつけ医機能報告制度」を踏まえた内容と推察されます。これは財政審の春の建議でも強調されていた論点であり、現時点では報酬とは直接リンクしていないものの、今後診療報酬と接続される可能性が高まっています。

制度が進展すれば、地域の医師の運営体制にも変化を促す可能性があり、例えば在宅医療への積極的なシフトや、地域連携の強化といった波及的な動きが出てくることも想定されます。

薬局にとっても、かかりつけ医との連携強化が求められる場面が増えるとともに、薬剤師側の「かかりつけ機能」や「対人業務」の質がより重視される方向に進むと考えられます。電子的な服薬情報の共有や、医療機関連携の実効性確保が、調剤報酬に影響する可能性も視野に入れておくべきです。

リフィル処方箋の普及・定着

今回の骨太方針2025でも「リフィル処方箋の普及・定着」が盛り込まれました。リフィル制度は導入から時間が経過しているにもかかわらず、現場での活用は進んでいないのが実情です。財政審の2025年春の建議では、最新のデータ(令和6年7月診療分)ではリフィル処方箋の実績が全体のわずか0.07%に留まっていることが指摘され、制度が機能していない状況が浮き彫りになっています。

財政審建議ではさらに一歩踏み込み、特定の慢性疾患等における診療報酬上の加減算も含めた措置を講じることにより、医療機関側のリフィル採用を促進すべきとの提言がなされています。仮に診療報酬と連動する形で誘導策が設けられれば、リフィル処方の普及が一気に進む可能性もあります。

その際、薬局側には患者への継続的なフォローアップ体制が求められます。リフィル処方が増えても、患者との接点を維持・強化できなければ、調剤機会の減少により収益が落ち込む懸念もあるためです。

多剤重複投薬および重複検査の適正化

「多剤重複投薬および重複検査の適正化」は、2024年の骨太方針で新たに示された論点であり、前回の診療報酬改定以降に追加された重要なテーマとして引き続き盛り込まれました。そのため、今後の診療報酬改定議論においても取り上げられる可能性があります。薬局には、重複投薬の解消や服薬管理の質向上に貢献する役割が強く期待されている一方で、「服用薬剤調整支援料」の算定率の低さを問題視する声もあり、今後、報酬の見直しが検討される余地があります。

おわりに

今回は「骨太方針2025」の中から、調剤に影響しうるポイントをピックアップ解説をいたしました。

示された政策の方向性は、2026年の調剤報酬改定の論議を大きく左右する見込みです。特に賃上げや医療DX推進、リフィル処方箋の普及などは、薬局運営に直結しうる変化をもたらします。今後は医療機関との連携を深めつつ、DXへの早期対応や教育体制の整備を進めることで、次の改定を見据えた準備を早めに進めていく必要があるといえるでしょう。

今回の内容が、皆さんの今後の業務や経営戦略を考える上で、少しでもお役に立てれば幸いです。

今月の「クローズアップ調剤行政」は以上です。

次号もお楽しみにお待ちください。

(作成:株式会社ネグジット総研 経営コンサルタント 津留隆幸)

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